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法務知識
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目次

1. フリーランスにとって法律は自分を守る武器

フリーランス協会が一般会員向けに実施したアンケート調査によると「約7割のフリーランスが取引先との報酬トラブルを経験」と記載されており、未払いのトラブルは定期的に発生しています。

通常の労働者の場合、企業と個人は雇用契約を結んでいます。雇用契約を結ぶと「労働基準法」「労働組合法」「職業安定法」など様々な法律によって労働者側の立場が守られています。

しかしフリーランスの場合は基本的に業務委託契約を結んで稼働することが多いです。その場合フリーランスを守る法律が少ないため自分で契約書の中身をしっかりとチェックして対応していくことが重要です。

重要なポイントとして「契約は原則として法律の規定よりも優先される」ということです。

法律的に倫理的におかしい契約書の文言が入っていたとしても原則それは適用されてしまいます。もちろん法律的におかしい場合は訴訟を起こせば勝てる可能性は高いのですがフリーランスが訴訟コストを負担し裁判に時間をかけるのは現実的ではありません。

そのためしっかりと契約書の文言に目を通してから契約する癖をつけましょう。

2. 業務委託契約の基本

副業・フリーランスですと基本的に雇用契約ではなく業務委託契約を結んで働くことになります。

さらに業務委託契約書は「請負契約」と「準委任契約」の2つに分類されます。この2つは成果物の完成義務があるかどうかという点で大きな違いがあります。

請負契約の場合は成果物を完成させる義務があり、成果物に問題がない場合に納品完了となります。逆に問題がある場合はそれに対する修正義務が発生します。

バグなどへの対応義務を「契約不適合責任」と表現します。

そのため請負契約の場合いは成果物の定義や修正回数の定義を曖昧にしてしまうとクライアント側が納品完了ではないと判断すればずっと作業しなくてはなりません。

準委任契約の場合は成果物に対する完成義務がないため作業に対して報酬が発生します。

請負契約の方がリスクが高い一方で成果物の完成義務があるため難易度が高く報酬単価も上がります。

3. 業務委託契約書のポイント

a. 「契約不適合責任」(以前だと瑕疵担保責任)

契約不適合責任とは「目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない」場合には受注者に対して修正を求めることができる権利です。
契約不適合責任が発生した場合に発注者側ができることは4つあります。
契約不適合責任が発生した際に発注者側ができること
  1. 追完請求

    • 契約の不適合が発生した場合に発注者側は受注者側に修正要求を出すことができます。

    • 加えて責任追及期間を瑕疵を発見した時から1年間以内かつ納品から最長10年以内と定められています。

    • 一方で修正に対して過分な費用がかかる場合には修補請求ができないようになっています。

    • そのため過分な費用がかかるものについては修正する義務がありません。

  2. 代金減額請求

    • 追完請求を出したのにもかかわらず修正に応じてくれない場合代金を減額することができる権利になります。
  3. 損害賠償請求

    • 契約不適合責任の場合、その契約が有効であると信じたために発生した損害に加えて履行利益まで含まれます。

    • 履行利益というのはその契約が履行されていれば発生していたであろう利益のことを指します。

    • これらの条項はフリーランスにとっては非常に不利なものとなります。

  4. 契約の解除

    • 契約不適合責任では、契約の解除が可能になっています。

b. 仕事が完了しなくても報酬請求は可能

例えば広告クリエイティブを10個作ってくださいという仕事だったとします。

従来であれば7個だけ作って納品しても契約で定めた10個ではないため報酬を受け取ることができませんでした。

近年の民法改正によって7個であれば7個分の報酬が受け取れるように変更になりました。

「クライアントの責任ではない理由により仕事の完了が不可能になった場合」もしくは「仕事の完了前に請負契約が解除された場合」において、

クライアントが受ける利益の割合に応じて報酬を請求することが可能になっています。

4. 業務委託契約書において注意するべき点

a. 契約書がすべてという意識を強く持つ

契約書を結ばずに口約束で仕事をするのは絶対にやめましょう。未払い発生の原因になります。

「信用できそうだからいいか・・・」などは禁物です。本当に信用できる人であれば契約書を結びたいと言えば絶対に契約書を結んでくれます。

また契約書の細かい条項に関しても社会通念的におかしいと思われる内容であっても法律上の項目がまずは優先されます。覆すためには裁判など大変なプロセスを踏む必要があります。

そのため細かいところも含めて譲れない部分は粘り強く交渉を行いましょう。

b. 自分を守るために契約書は確認して修正したい条項についてはしっかり相手に伝える

クライアントから最初提出されてくる契約書は基本的にクライアントに有利な内容になっていると考えてください。

その上で契約書の条項はしっかりと自分の目で確認し修正したい条項については相手に伝えましょう。

そもそも自分の方で契約書の雛形を用意しておき、先にその雛形を提出することで契約書の主導権を握るのもおすすめです。

c. 要件定義で実現可能な仕様で設定する

要件定義を間違えて実現不可能な契約内容になっていることが多くの場合トラブルにつながる原因になります。

細かい用件については契約書に記載すると長くなり過ぎてしまうため「別紙に定める」などとすることが多いです。

d. 修正義務の発生期間に上限を設ける

通常は納品から数ヶ月だと思います。ここに上限を設けない場合、相手は最長10年間にわたってバグを見つけたときに修正を要求する権利があります。

それは流石に防がなければなりません。常識的に納品してから数ヶ月問題がなければ問題ないですし、数年後のバグについては納品者の責任の範疇ではないケース(クライアントによる誤操作やシステムのアップデート)も多いです。ここはしっかりと期間設定を行いましょう。

e. 報酬基準・支払い時期の条項があるか

「報酬が何に基づいてどれくらい支払われるのか」「支払いタイミングはいつなのか」についてもしっかりと明記しておきましょう。

納品してすぐ振り込まれると思ったら2ヶ月後だった・・・などの事態にならないよう、しっかりと明記するのがおすすめです。

f. 納品物の著作権に関する条項があるか

納品物には著作権が発生しますがこちらについてもどこまでは相手の著作権でどこからは自分の著作権かをはっきりと記載しましょう。

本来自分の著作権であるものまで相手側のものになってしまうと今後の業務に支障をきたすケースがあります。

g. 競業避止条項が存在するか

ノウハウを持ち出し競合企業に流出することを防ぐために他の企業への就職を制限する規約のことです。

  • 守るべき企業の利益があるか
  • 従業員の地位
  • 地域的な限定性
  • 競業避止期間の存続期間
  • 競合行為の範囲の制限
  • 代行措置

競業避止契約関連については独占禁止法のもとフリーランスは守られており、「締結前に業務内容が十分に明らかになっていなかった」「不当に不利益を与える」場合においては競業避止契約が無効になる可能性があります。

ただそもそも競業避止についてはできる限り結ばない方向性で交渉することをおすすめします。そうでないと今後の自由な活動が妨げられてしまうからです。

h. 損害賠償責任の上限は定められているか

損害賠償については故意ではなく過失の場合においても発生する可能性があります。

契約で交わした内容を守れなかった場合はわざとではなくても損害賠償請求されてしまうリスクがあるのです。

そういったことを未然に防ぐために損害賠償責任の上限を定めておくことを推奨します。

具体的には以下のような条項を契約書の中に入れるようにしましょう。
また、損害賠償の範囲を現実に発生した通常かつ直接の損害に制限するのも推奨します。

この記載がない場合、間接的な損害や逸失利益なども含めて損害賠償請求される危険性があります。

例えばWEBサイト制作50万円の案件でいうと、上下の2つの項目を入れた上で約束を守れなかった際は受け取った委託料を賠償の上限とできます。

ただし、これらがない場合は、そのWEBサイト制作が納品されなかったことで間接的にその会社の売上が1000万円見込みより下がってしまったなどの場合に1000万円も含めて請求できるようになってしまうのです。

以下の項目で現実に発生した直接の損害に限るようにしましょう。

5. 下請法 - 大企業からフリーランスの身を守る法律

下請法はフリーランスを守ってくれるものです。正式名称は「下請代金支払遅延等防止法」です。

左図の通り下請法の対象となる取引の定義は親事業者と下請け事業者の資本金規模で規定されています。

クライアントの資本金が1000万円を越す場合であれば多くの方の場合は下請法の対象になります。
 (4581)

下請法において親事業者(発注者)が禁止されている行為
  1. 受領拒否の禁止

    • 発注元の都合による仕様の変更等を理由にし下請け事業者による給付を受領しないこと
  2. 下請け代金の支払い遅延の禁止

    • 支払い期日までに金額を払わないこと
  3. 下請け代金の減額

    • 下請け事業者に責任がないのにも関わらず減額すること
  4. 返品の禁止

    • 納品物に瑕疵がないにも関わらず返品すること
  5. 買いたたきの禁止

    • 通常支払われる対価に対して著しく低い額を給付している場合
  6. 購入・利用強制の禁止

    • 正当な理由なく下請け事業者にサービスや物品の購入・利用を強制すること
  7. 報復措置の禁止

    • 下請け事業者が公正取引委員会または中小企業庁に下請法違反行為を通知したことを理由に下請け事業者に対して不利益な扱いをすること
  8. 有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止

    • 親事業者が下請事業者の給付に必要な半製品,部品,付属品又は原材料を有償で支給している場合に,下請事業者の責任に帰すべき理由がないのにこの有償支給原材料等を用いて製造又は修理した物品の下請代金の支払期日より早い時期に当該原材料等の対価を下請事業者に支払わせたり下請代金から控除(相殺)したりすること
  9. 割引困難な手形の交付の禁止

    • 下請代金を手形で支払う場合,支払期日までに一般の金融機関で割り引くことが困難な手形を交付すること
  10. 不当な経済上の利益の提供要請の禁止

    • 下請事業者に対して,自己のために金銭,役務その他の経済上の利益を提供させることにより,下請事業者の利益を不当に害すること
  11. 不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止

    • 下請事業者に責任がないのに,発注の取消若しくは発注内容の変更を行い,又は受領後にやり直しをさせること
下請法は非常に効力の強い法律であるため仮に契約書で下請法に違反する内容が記載されていた場合も、契約書の内容を無視して下請法に基づいて措置を要求することができます。

(引用:https://www.jftc.go.jp/shitauke/shitaukegaiyo/oyakinsi.html)

6. 契約違反にならないためにフリーランスが注意すべきこと

a. 納期と品質について合意したものを守る

大前提として、相手が求めている納期に相手が求めている品質で成果物を提供すれば基本的に問題は発生しません。

この当たり前のことをできないと、相手からの信頼を失うだけではなく契約違反として賠償請求リスクも発生します。

b. コンプライアンスを守り情報漏洩に注意する

近年従業員によるSNSでの情報流出などが問題になっています。コンプライアンス・情報流出問題については甘く見ずにしっかりと守るようにしましょう。

SNSで仕事の情報について公開してしまう、文句を言ってしまうなどを行うと基本的には一発で契約違反となり損害賠償請求までされる恐れがあります。

コンプライアンス違反という基本中の基本すら守ることができないフリーランスは絶対に長くは続きません。

しっかりルールを確認して守るようにしましょう!

c. 作業ルール

クライアントから求められた作業ルールなどについては基本的に守るようにしましょう。

納品場所、連絡手段、進捗報告など細かい約束を守れないと信頼を失い酷いケースでは契約違反となることもあります。

7. 業務委託契約書雛形

こちらでは日本労働弁護団監修の「フリーランスのための自由に使える契約書雛形」を紹介します。
契約書など雛形集

以下4つの雛形があるので、ダウンロードしてカスタマイズして活用すると良いでしょう。

  • 基本契約書(準委任型)
  • 基本契約書(請負型)
  • 1回限りの契約書(準委任型)
  • 1回限りの契約書(請負型)
またこちらの雛形を提供している会社がまとめた「フリーランスのための契約書の結び方が徹底ガイド」はおすすめなので、勉強しておくことをお勧めします。

契約書に必要な項目について詳細まで解説されているため一度読んで理解しておきましょう!
フリーランスのための契約書の結び方が徹底ガイド >

8. おすすめ情報ソース

厚生労働省はフリーランスが安心して働ける環境整備に向けて動いており様々な情報を公開しています。

法律関連では網羅的に正確な情報を抑えるのであれば政府発表の情報を参考にしましょう。

(また法律は随時アップデートされるものであるため正確な法律情報に関しては政府情報をご参考ください。)
厚生労働省の公開する情報
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