第4章
行動データの読解基礎 — 公開後の数字から課題を見つける
レッスン 4-4 プロトタイピングと検証 ⏱ 所要時間:約60分
GOAL
このレッスンのゴール
⏱ 約60分
  • 行動データ(アクセス解析)を使い、予約フローのどの画面で離脱が多いかを読み取れる
  • 平均・母数(n)・相関と因果・割合と実数の4つの注意点をふまえて、数字を正しく読める
  • 提供データから課題を見つけ、仮説を立てて次の改善候補を1つ挙げられる
通し課題

前回(4-3)では、ユーザビリティテストで見つかった課題をもとに、改善版のUIと、なぜそう直したかをまとめた意図シートを作りました。今回は、この予約サービスが公開されたと想定した疑似的なアクセスデータを読み、どこに課題が残っているかを数字から見つけます。仕上げる成果物は、提供データから課題と改善候補を書き出したデータ読解演習です。この読み方は、第5章のリリース後の改善提案で継続的な改善の仕組みを提案するときの土台になります。

第3章で予約サービスのUIとスタイルガイドを作り、第4章ではそれをプロトタイプにして(4-1)、コーチに触ってもらうユーザビリティテスト(4-2)で見つかった課題から改善版のUI(4-3)まで仕上げてきました。ここまでは公開する前のデザインの話です。実際のサービスは、公開してからが本当のスタートになります。使う人が増えると、どの画面でつまずいているか、どこで予約をやめてしまうかが、行動データとして数字に表れます。このレッスンでは、リフトの予約サービスを公開したと想定した疑似的なアクセスデータを読み、どこに課題があるかを自分で見つける練習をします。あわせて、数字にだまされないための読み方も身につけます。これは、第1章で学んだ7ステップの最後にあたる継続的な改善(⑦)を、公開前に一度体験しておくものです。

公開後の数字を読むとは(行動データの位置づけ)

デザインは、公開したら完成ではありません。使う人の動きを数字で見て、うまくいっていない場所を直し続けます。この直し続ける工程が、7ステップの⑦継続的な改善にあたります。

作る→公開する→行動データを見る→課題を見つけて直す、の4つを時計回りの矢印でつなぎ、最後から最初へ戻して繰り返し回り続ける継続的な改善(⑦)の循環図
図:公開は終わりではなく、データを見て直す入口。⑦継続的な改善のループが回り続ける。

行動データとは、サービスを使った人が実際にどう動いたかの記録です。無料で使えるアクセス解析ツールを入れておくと、どのページが何回見られたか、どの画面から次に進んだか、どこで離れたかが数字でわかります。今回のリフトの予約サービスはまだ公開していないので、公開されたと想定した疑似的なデータを使って、読み方を先に練習します。

まず、これから何度も出てくる言葉を整理します。予約の入口から完了までの一連の画面の流れを予約フローと呼びます。ある画面まで来た人のうち、次に進まず離れてしまった人の割合が離脱率です。逆に、最後まで進んで予約を終えた人の割合が完了率です。予約フローを、上から下へ人数が減る漏斗(じょうご)に見立てて、どこで人が抜けるかを見ます。

✓ Point !
数字は課題の在りかを教えてくれる

行動データは、どこがうまくいっていないかを教えてくれます。ただし、なぜそうなったかまでは教えてくれません。数字は課題のある場所を指し示す入口で、その理由を考えて直すのは自分の仕事です。この順番を覚えておきましょう。

Q
確認クイズ 1/3
リフトの予約サービスを公開したと想定します。日時を選ぶ画面の離脱率が高い、というデータが出ました。この離脱率が表しているのはどれでしょう?
正解です!
離脱率は、その画面まで来た人を母数として、次に進まず離れた人の割合を表します。数字は離脱が起きた場所を示しますが、理由(C)や良し悪しの評価(D)までは教えてくれません。理由は自分で考えます。
惜しい!
離脱率は、その画面まで来た人のうち次へ進まなかった人の割合(B)です。理由(C)や評価(D)は数字そのものには含まれません。数字はどこで離脱したかを示す入口で、理由を考えるのは自分の仕事でした。

どの画面で離脱しているかを読む

ここからは、公開を想定した疑似データを実際に読みます。下の表は、過去30日にリフトの予約フローを使った人が、各画面でどれだけ次に進み、どれだけ離れたかを記録したものです。

予約フローの画面到達した人数(n)次の画面へ進んだ人数離脱率
①予約トップ1,00072028%
②日時を選ぶ72064810%
③情報を入力する64840038%
④内容を確認4003805%
⑤予約完了380--

最初にやることは、どの画面で離脱が多いかを見つけることです。離脱率だけを並べると、③情報を入力する画面が38%で飛び抜けて高いことがわかります。同じ数字を棒の長さにすると、違いが一目で見えます。

画面ごとの離脱率(過去30日の疑似データ)
①予約トップ
28%(280人が離脱)
②日時を選ぶ
10%(72人が離脱)
③情報を入力する
38%(248人が離脱)
④内容を確認
5%(20人が離脱)

③情報を入力する画面は、日時まで選んで予約する気になった人が、あと少しで完了というところで4割近く抜けています。ここが最初に疑うべき画面です。第3章で作った入力画面を思い出すと、名前・電話番号・メール・要望など、入力する項目が多かったかもしれません。項目の多さや、会員登録を必須にしていることが、離脱の原因の候補になります。

✓ Point !
離脱率の母数はその画面に来た人

離脱率は、サービス全体の人数ではなく、その画面まで来た人を母数にして計算します。③の38%は、③に来た648人のうち248人が離れたという意味です。母数がどこの人数かを取り違えると、課題の大きさを見誤ります。表では到達した人数(n)の列が母数にあたります。

Q
確認クイズ 2/3
上の予約フローのデータを見て、改善のために最初に詳しく調べる画面を1つ選ぶとしたら、どれが最も妥当でしょう?
正解です!
離脱率が飛び抜けて高い③(38%)が、最初に調べる画面です。日時まで選んで進む気になった人が248人も抜けているので、もったいなさが大きい場所です。難しそうという印象(C)ではなく、数字で判断するのがコツでした。
惜しい!
最初に調べるのは、離脱率が飛び抜けて高い③(38%)です。④は離脱率5%で問題は小さく、②は印象で選んでいます。進む気で来た人が最も多く抜けている画面から手をつけるのが、効果の大きい直し方です。

数字にだまされない読み方(4つの落とし穴)

数字は便利ですが、読み方を間違えると見当違いの結論に飛びついてしまいます。ここでは、初心者がはまりやすい4つの落とし穴を確認します。

1. 平均だけを見ない(平均の落とし穴)

たとえば、予約を終えるまでの平均時間が4分だったとします。一見すると、みんな4分ほどで快適に予約できているように見えます。ところが内訳を見ると、10人のうち8人は2分前後で終えていて、残りの2人が15分以上かけて途中でやめていました。平均の4分は、この一部の長い時間に引っ張られた数字です。平均だけを見ると、強く詰まっている人がいることに気づけません。平均を見たら、ばらつきや内訳もあわせて見ます。

2. 母数(n)が小さい割合を信じすぎない

割合は、母数が小さいと大きく揺れます。下の表は、予約トップに来た1,000人を、どこから来たか(流入元)で分けたものです。

流入元訪問した人数(n)予約完了した人数完了率
LINE公式52025048%
Google検索36010028%
Instagram広告1122623%
チラシのQRコード8450%

チラシのQRコードは完了率50%で、一番良い流入元に見えます。しかし訪問はたった8人で、うち4人が完了しただけです。あと1人増えるか減るかで、完了率は簡単に大きく動きます。この数字から、チラシが最も効く集客だと結論づけることはできません。一方、LINE公式は520人という十分な母数で48%なので、こちらの数字は信頼して読めます。割合を見たら、その母数(n)が判断に足りる大きさかを必ず確認します。

3. 同時に動いても原因とは限らない(相関≠因果)

Instagram広告を出した週に、予約完了が増えたとします。広告のおかげだと言いたくなります。しかし同じ週に、地元のテレビでジムが特集され、Google検索からの訪問も増えていました。2つの数字が同じ時期に動いても、一方がもう一方の原因とは限りません。これを相関と因果の違いと言います。

! 注意
原因を決めつけて直さない

原因を決めつけて改善に手をつけると、見当違いの修正に時間を使ってしまいます。数字が動いたときは、本当にそれが原因かを一度疑い、他に効いた要因がないかを確かめてから直しましょう。

4. 割合と実数の両方を見る

割合(%)だけ、あるいは実数(人数)だけを見ると、大事なことを見落とします。先ほどの予約フローで比べてみます。離脱率が最も高いのは③情報を入力する画面(38%)ですが、人数で見ると①予約トップの離脱280人が最大です。ただし①は、まだ予約する気が固まっていない人も通る入口なので、離脱は高めに出やすい場所です。③は、日時まで選んで進む気になった人が抜けているので、同じ人数でももったいなさが大きくなります。割合と実数、そしてその画面がどんな人の通る場所かをあわせて読むと、どこを直すのが効果的かが見えてきます。

Q
確認クイズ 3/3
織田さんが「チラシのQRコードは完了率50%だから、これからはチラシに力を入れたい」と言いました。データを読んだあなたの返答として、最も適切なものはどれでしょう?
正解です!
QRの母数は8人しかなく、割合が大きく揺れます。この数字だけで力を入れる先を決めるのは危険です(C)。母数の大きいLINE公式やGoogle検索の数字のほうが信頼して読めます。母数(n)を確認する落とし穴の応用でした。
惜しい!
QRの完了率50%は、訪問8人・完了4人という小さい母数の数字で、簡単に揺れます。これだけで判断はできません(C)。流入元は見なくてよい(D)わけでもありません。母数が判断に足りる大きさかを確認するのがポイントでした。

演習:データから課題と改善候補を書き出す

ここまでの読み方を使って、リフトの疑似データから課題を見つけ、次の改善候補までを書き出します。手順は4つのステップに分かれています。この流れは、公開後に実際のデータを見るときにもそのまま使えます。

1
離脱の多い画面を見つける
離脱率+人数を書き出す
2
母数を確認する
その数字は信頼できるか
3
仮説を立てる
なぜ離脱したか(3章UI・4章テストと結ぶ)
4
次の改善候補を1つ選ぶ
理由を添える
図:数字を見る(①②)と、理由を考えて直す(③④)は別の作業。この4ステップでデータから改善候補まで導く。
演習 4-4
📋 事前準備
  • このレッスンの2つの表(予約フロー・流入元)を、手元に開いておく
  • 第3章で作った予約フローの画面構成と、第4章のテスト記録(4-2)を見返せるようにする
  • 書き込む場所(メモ帳や表計算、ドキュメント)を用意する

STEP 1:離脱の多い画面を見つける

  • 予約フローの表から、離脱率が高い画面を上位から書き出す
  • 各画面について、離脱率(%)と離脱した人数の両方を並べて書く

STEP 2:その数字の母数を確認する

  • 書き出した数字が、どれだけの人数(n)を母数にしているかを確認する
  • 母数が小さすぎて当てにならない箇所があれば、判断を保留する印を付ける

STEP 3:なぜ離脱したのか仮説を立てる

  • 離脱が最も多い画面について、離れた理由の仮説を1〜2個書く
  • 第3章で作ったその画面のUIと、第4章のユーザビリティテストで出た課題を結びつけて考える

STEP 4:次の改善候補を1つ選ぶ

  • 仮説をもとに、次に試したい改善を1つ選び、なぜそれを選んだかの理由を添える
  • 相関と因果の落とし穴を思い出し、原因を決めつけていないかを見直す

完了条件(作成物)

  • データ読解メモ:離脱の多い画面(離脱率+人数)/母数の確認結果/離脱の仮説/次の改善候補1つと、その理由
  • 注意点メモ:4つの落とし穴(平均・母数・相関と因果・割合と実数)のうち、今回どれに気をつけて読んだかを2〜3行で書く
不安なところがあれば、コーチに相談してみましょう

このデータ読解演習は、公開後に自分でサービスを直し続ける練習です。第5章では、ここで見つけた課題をもとに、リリース後も継続的に改善し続ける仕組みを提案書にまとめます。今回書き出した課題と改善候補のメモは、そのまま次の章の材料になります。

CHECK
理解度チェック
予約フローのどの画面で離脱が多いかを、データから読み取れる
各画面の離脱率は、その画面に来た人(到達した人数=母数)のうち次へ進まなかった人の割合です。リフトの疑似データでは③情報を入力する画面が38%で飛び抜けて高く、日時まで選んで進む気になった人が最も多く抜けているので、最初に調べる画面でした。
平均・母数(n)・相関と因果・割合と実数の4つの注意点をふまえて数字を読める
平均は一部の極端な値に引っ張られるのでばらつきも見ます。母数が小さい割合(例:QR訪問8人で完了率50%)は当てになりません。2つの数字が同時に動いても原因とは限りません。割合と実数は両方を見て、その画面がどんな人の通る場所かもあわせて読みます。
提供データから課題を見つけ、仮説を立てて改善候補を1つ挙げられる
離脱の多い画面を見つけ(STEP1)、母数を確認し(STEP2)、なぜ離脱したかの仮説を立て(STEP3)、次の改善候補を1つ選ぶ(STEP4)という手順でした。数字はどこに課題があるかを示す入口で、理由を考えて直すのは自分の仕事、という順番を覚えておきましょう。
提出 第4章の提出物 — コーチに提出しよう

この章で作った次の成果物を、まとめてコーチへ提出します。コーチが確認したら次の章へ進みます。(※途中の作業シート・自己採点の演習は提出不要)