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目次
0. はじめに
21世紀以降、消費者の趣向は目まぐるしく変化しているため、マーケティング理論におけるアップデートが繰り返されています。そのため、私たちは時代のトレンドを押さえつつ、素早い情報のキャッチアップをすることが求められています。
今回は、時代の流れに即して、マーケティング理論を発表している「コトラー」が述べるマーケティング理論を紹介したいと思います。
1. コトラーの功績
経営学者であるフィリップ・コトラーは、これまで数多くのマーケティング理論を発表してきました。主要な学術誌で発表した論文は100以上にのぼり、多数の著書を出版していることから「マーケティング界の第一人者」と呼ばれています。
「マーケティング・マネジメント」や「STP分析」はコトラーが定義した用語です。
特にSTP分析はマーケティングを少しかじったことがある人なら、誰もが知っているようなフレームワークでしょう。
「マーケティング・マネジメント」や「STP分析」はコトラーが定義した用語です。
特にSTP分析はマーケティングを少しかじったことがある人なら、誰もが知っているようなフレームワークでしょう。
STP分析
「セグメンテーション」、「ターゲティング」、「ポジショニング」の頭文字のアルファベットをつなげたものを指します。
市場の見極め、ターゲットの明確化、ライバルとの市場における位置関係の理解の際に有用な概念です。
2. マーケティング概念の変遷
a. マーケティング1.0 製品中心
はるか昔の工業化時代、すなわちコア・テクノロジーが工業用機械だった時代には、マーケティングとは、工場から生み出される製品をすべての潜在的購買者に売り込むことでした。
当時のビジネスモデルは、規格化と規模の拡大によって生産コストをできる限り低くし、価格を下げてより多くの購買者に買ってもらおうとしていました。ヘンリー・フォードのT型車はこの戦略の典型です。
1960年代には「4P分析」のフレームワークが普及しました。これは「Product(製品)」「Price(価格)」「Promotion(プロモーション)」「Place(流通)」の枠組みでマーケティング・コンセプトを策定するもので、当時のアメリカの製造業部門では欠かせない戦略として機能していました。
つまり、マーケティング1.0は、大量生産・大量消費を前提とした、製品中心のマーケティングを指します。
当時のビジネスモデルは、規格化と規模の拡大によって生産コストをできる限り低くし、価格を下げてより多くの購買者に買ってもらおうとしていました。ヘンリー・フォードのT型車はこの戦略の典型です。
1960年代には「4P分析」のフレームワークが普及しました。これは「Product(製品)」「Price(価格)」「Promotion(プロモーション)」「Place(流通)」の枠組みでマーケティング・コンセプトを策定するもので、当時のアメリカの製造業部門では欠かせない戦略として機能していました。
つまり、マーケティング1.0は、大量生産・大量消費を前提とした、製品中心のマーケティングを指します。
b. マーケティング2.0 消費者中心
消費者にフォーカスしたマーケティングを指します。1970年代の石油ショックにおけるスタグフレーションをきっかけとし、消費者の買い控えが起こったことから、この概念が生まれました。
従来行われていた戦術的な性格のマーケティング活動が見直され、「顧客」に焦点を当てる戦略的な手法が採用されました。その戦略を「STPマーケティング」と呼び、他社製品との「差別化」が図られる流れが生じました。
また、その後パーソナルコンピューターが普及することによって情報技術が発達し、この傾向に拍車がかかりました。
消費者は十分な情報を持っており、類似の製品を簡単に比較することができます。製品の価値は消費者によって決められ、その消費者の選好はバラバラです。そのため、マーケターは市場をセグメント化し、特定の標的市場に向けて他社より優れた製品を開発しなければならないのです。
よって、より消費者に訴えかけるようなマーケティングが主流となりました。
従来行われていた戦術的な性格のマーケティング活動が見直され、「顧客」に焦点を当てる戦略的な手法が採用されました。その戦略を「STPマーケティング」と呼び、他社製品との「差別化」が図られる流れが生じました。
また、その後パーソナルコンピューターが普及することによって情報技術が発達し、この傾向に拍車がかかりました。
消費者は十分な情報を持っており、類似の製品を簡単に比較することができます。製品の価値は消費者によって決められ、その消費者の選好はバラバラです。そのため、マーケターは市場をセグメント化し、特定の標的市場に向けて他社より優れた製品を開発しなければならないのです。
よって、より消費者に訴えかけるようなマーケティングが主流となりました。
c. マーケティング3.0 人間中心
「世界をよりよい場所にすること」に焦点を当てた価値主導のマーケティングを指します。
マーケティング3.0では、マーケターは人々を単に消費者としてみなすのではなく、マインドとハートと精神を持つ全人的存在と捉えて彼らに働きかけます。
消費者はグローバル化した世界をより良い場所にしたいという思いから、自分たちの不安に対するソリューションを求めるようになっています。
情報にあふれ、混乱に満ちた世界において、自分たちの一番深いところにある欲求、社会的・経済的・環境的公正さに対する欲求に、ミッションやビジョンや価値で対応している企業を探しています。選択する製品やサービスに、機能的・感情的充足だけでなく精神の充足も求めているのです。
そして、2000年代初頭以降、情報技術は個人や手段が互いにつながったり交流したりすることを可能にする技術へと発展しました。これは、従来「消費者(Consumer)」と呼ばれていた人々が「生産消費者(Prosumer)」へと変わることを可能としました。
つまり、個人が自己を表現することや他の人々と協働することを可能にする「参加の時代」が到来したのです。
マーケティング3.0の時代に生まれたプロダクトとして、ソーシャル・メディアがありますが、これらは二つの大きなカテゴリーに分類できます。
マーケティング3.0では、マーケターは人々を単に消費者としてみなすのではなく、マインドとハートと精神を持つ全人的存在と捉えて彼らに働きかけます。
消費者はグローバル化した世界をより良い場所にしたいという思いから、自分たちの不安に対するソリューションを求めるようになっています。
情報にあふれ、混乱に満ちた世界において、自分たちの一番深いところにある欲求、社会的・経済的・環境的公正さに対する欲求に、ミッションやビジョンや価値で対応している企業を探しています。選択する製品やサービスに、機能的・感情的充足だけでなく精神の充足も求めているのです。
そして、2000年代初頭以降、情報技術は個人や手段が互いにつながったり交流したりすることを可能にする技術へと発展しました。これは、従来「消費者(Consumer)」と呼ばれていた人々が「生産消費者(Prosumer)」へと変わることを可能としました。
つまり、個人が自己を表現することや他の人々と協働することを可能にする「参加の時代」が到来したのです。
マーケティング3.0の時代に生まれたプロダクトとして、ソーシャル・メディアがありますが、これらは二つの大きなカテゴリーに分類できます。
表層型ソーシャル・メディア
FacebookやTwitter、YouTube、ブログなどのメディアを指します。消費者が自分の意見や経験によって他の消費者に影響を与えることが簡単にできるようになり、こうした「クチコミ」を生かしたマーケティング施策を行う企業も出てきました。ソーシャル・メディアの低コストで情報発信ができる特性に目をつけた企業は、テキストマイニングソフトウェアなどを用いて市場の声を分析するようになりました。
協働型ソーシャル・メディア
百科事典の「ウィキペディア」や、クチコミグルメサイトの「食べログ」などがこれに当てはまります。開かれたプラットフォームで参加者が自由に編集作業を行い、集合知の力を最大限に活かしたメディアは、マーケティング担当者のこれまでの動きを一変させました。
マーケティングにおいて市場の声に耳を傾けざるを得なくなり、消費者と共に製品・サービスの価値創造を行うようになりました。こうした概念を「共創(Co-Creation)」と呼びます。
マーケティングにおいて市場の声に耳を傾けざるを得なくなり、消費者と共に製品・サービスの価値創造を行うようになりました。こうした概念を「共創(Co-Creation)」と呼びます。
d. マーケティング4.0 自己実現
マズローの「欲求五段階説」における自己実現理論をもとにした概念です。欲求五段階説において、自己実現欲求は第5段階に位置しており、個々人が「あるべき自分」になりたいと願う欲求のことを指します。
マズローは晩年、「欲求の階層はもしかすると逆かもしれない」と語ったといわれています。マーケティングの大家コトラーはこの逸話を引用し、現代社会では多くの人がすでに生理的欲求・安全欲求・社会的欲求・承認欲求までの段階を満たしており、その先の自己実現や自己超越こそが重要になっていると指摘しています。
そのため、「自己実現」の欲求こそが人間が本来満たすべき欲求であり、現在のマーケティング施策も「自己実現」に焦点を当てるべきだと提言しています。
マズローは晩年、「欲求の階層はもしかすると逆かもしれない」と語ったといわれています。マーケティングの大家コトラーはこの逸話を引用し、現代社会では多くの人がすでに生理的欲求・安全欲求・社会的欲求・承認欲求までの段階を満たしており、その先の自己実現や自己超越こそが重要になっていると指摘しています。
そのため、「自己実現」の欲求こそが人間が本来満たすべき欲求であり、現在のマーケティング施策も「自己実現」に焦点を当てるべきだと提言しています。
3. マーケティング3.0・4.0に必要とされる「3i」とは
a. ブランド・アイデンティティ
ブランド・アイデンティティは企業側が『顧客にこう思われたい』と意図して構築する、ブランドの独自性やコンセプトのことです。
企業としての理念やビジョンがこれにあたります。
企業としての理念やビジョンがこれにあたります。
b. ブランド・インテグリティ
ブランド・インテグリティは消費者から見た企業の誠実さを表しています。
社会をよくするために、ほかの企業にはない取り組みをしているかどうかということです。
社会をよくするために、ほかの企業にはない取り組みをしているかどうかということです。
c. ブランド・イメージ
ブランド・イメージは消費者がそのブランドに対して抱いている主観的な印象や心象のことです。ブランド・アイデンティティに基づいた企業活動の結果として、消費者の心の中に形成されます。
マーケティング3.0・4.0を実践するには、これら3つの要素をバランスよく取り入れることが重要です。
そのために「ポジショニング」「ブランド」「差別化」という面でそれぞれ自社がどういった施策をとっていくのか、それらが3iにどのような影響を及ぼすのかをよく考えていく必要があります。
マーケティング3.0・4.0を実践するには、これら3つの要素をバランスよく取り入れることが重要です。
そのために「ポジショニング」「ブランド」「差別化」という面でそれぞれ自社がどういった施策をとっていくのか、それらが3iにどのような影響を及ぼすのかをよく考えていく必要があります。
4. マーケティング4.0の先行事例
★ レッドブル (Red Bull)
オーストリアのRed Bull GmbH社が販売する清涼飲料水「レッドブル」は、押し売りの形でマーケティングを行わず、スポーツイベントやミュージックフェスティバルなどのスポンサーを積極的に行い、アクティビティをサポートする存在として商品をPRしています。
また、既存のイベントのみをサポートするだけでなく、自分たちで新たにプロジェクトを立ち上げ、個々人の夢や野望を叶えるプロセスも積極的に支援しています。
近年では、実践型のビジネスコンテストも毎年開催しています。
また、既存のイベントのみをサポートするだけでなく、自分たちで新たにプロジェクトを立ち上げ、個々人の夢や野望を叶えるプロセスも積極的に支援しています。
近年では、実践型のビジネスコンテストも毎年開催しています。
5. Tips
a. ターゲットを絞る
コトラーは「Segmentation(市場の細分化)」「Targeting(ターゲットの明確化)」「Positioning(他社との差別化)」の3つの頭文字をとったSTP分析を提唱しています。
STP分析では、自分の企業や商品、サービスが他とどう異なるかを明らかにすることで顧客に選ばれることを目指します。顧客のニーズを特定し、競争の舞台となる市場を選択し、ターゲットを絞ることが、マーケティングのスタートであるとコトラーは述べています。
ターゲットを絞ることで、対象となる顧客の範囲を狭めているように感じますが、実際には特定のターゲットに向けた強烈なメッセージの方が、ターゲットとしていない顧客の琴線にも触れることが多い可能性があります。
その商品・サービスは、誰に届けたいのですか?勇気を持って八方美人にならず、特定のターゲットにとって最高であることを目指しましょう。
STP分析では、自分の企業や商品、サービスが他とどう異なるかを明らかにすることで顧客に選ばれることを目指します。顧客のニーズを特定し、競争の舞台となる市場を選択し、ターゲットを絞ることが、マーケティングのスタートであるとコトラーは述べています。
ターゲットを絞ることで、対象となる顧客の範囲を狭めているように感じますが、実際には特定のターゲットに向けた強烈なメッセージの方が、ターゲットとしていない顧客の琴線にも触れることが多い可能性があります。
その商品・サービスは、誰に届けたいのですか?勇気を持って八方美人にならず、特定のターゲットにとって最高であることを目指しましょう。
b. 勝者は顧客が決める
企業は業界の秩序や自社の利益を優先するあまり、顧客の利便性や利益を後回しにしてしまうことがしばしばあります。
こういった状況について、コトラーはこう唱えています。
こういった状況について、コトラーはこう唱えています。
「今日の売上と引き換えに明日の顧客を失うことがよくある。」
マーケターが目指すべきは、顧客との長期にわたる相互的関係を築くことであって、単に製品を売ることではありません。
Google創業者のラリー・ペイジも、「顧客やユーザーは常に正しいと考え、彼らにとって違和感のないシステムを作ろうとすべきだ。システムは取り換えられても、ユーザーは取り換えることはできないのだから」と言っています。
当時、Googleを成長させた無料検索エンジンは様々な企業が提供していましたが、他社が広告主に目を向けているのに対し、Googleはユーザーが必要とする情報をできるだけ速く届けることに注力していました。
結果はご存じの通りです。口で言うほど簡単なことではありませんが、競合他社に勝とうとするあまり、顧客が視界から消えてしまうことがないよう、心の奥底から顧客を第一にサービスを考えましょう。勝者を決めるのは、顧客です。
Google創業者のラリー・ペイジも、「顧客やユーザーは常に正しいと考え、彼らにとって違和感のないシステムを作ろうとすべきだ。システムは取り換えられても、ユーザーは取り換えることはできないのだから」と言っています。
当時、Googleを成長させた無料検索エンジンは様々な企業が提供していましたが、他社が広告主に目を向けているのに対し、Googleはユーザーが必要とする情報をできるだけ速く届けることに注力していました。
結果はご存じの通りです。口で言うほど簡単なことではありませんが、競合他社に勝とうとするあまり、顧客が視界から消えてしまうことがないよう、心の奥底から顧客を第一にサービスを考えましょう。勝者を決めるのは、顧客です。
c. イノベーションを行わないことは破滅につながる
企業はイノベーションを起こすために、たくさんのアイデアを生み出す必要があり、失敗が多いからと諦めてしまったら破滅の道を歩むことになります。
コトラーは「企業はアイデアをとらえる網が用意されていない」と述べ、すべての社員や組織全体から、創造的なアイデアを生む必要性を説いています。
また、コトラーは「イノベーションを導入するためには、現時点ではうまくいっているものを変えなくてはならないことが多い」と言っていますが、本田宗一郎は同じようなことを、「モデルチェンジは売れているときにやれ」といった言葉で表現しています。
今のやり方を変えなければならないことには強い抵抗感があります。しかし、うまくいっている時にイノベーションを起こす勇気こそが、次なる躍進を呼び込むのです。
コトラーは「企業はアイデアをとらえる網が用意されていない」と述べ、すべての社員や組織全体から、創造的なアイデアを生む必要性を説いています。
また、コトラーは「イノベーションを導入するためには、現時点ではうまくいっているものを変えなくてはならないことが多い」と言っていますが、本田宗一郎は同じようなことを、「モデルチェンジは売れているときにやれ」といった言葉で表現しています。
今のやり方を変えなければならないことには強い抵抗感があります。しかし、うまくいっている時にイノベーションを起こす勇気こそが、次なる躍進を呼び込むのです。