第1章
作ったLPは誰のためだった?
レッスン 1-1 UX/UIデザインの基礎 ⏱ 所要時間:約70分
ゴール
このレッスンのゴール
⏱ 約70分
  • Figma教材で模写した制作物を、誰のための・何を達成するデザインだったかで読み解ける
  • UXとUIの違いを理解し、見た目の完成が目的ではなく手段であることを説明できる
  • 模写した制作物を七つの視点で読み解き、これから自分で決める領域を見つけられる
この講座の進め方

第2章から、通し課題「リフト」(ジムの予約サービス)を一気通貫で設計します。各レッスンで成果物を作り、各章の最後に、その章で作った成果物をまとめてコーチに提出します。提出物はコーチが確認し、次の章へ進みます。(第1章は自己採点の演習のみで、提出はありません)

Figmaの教材では、見本(サンプル)をもとに、歯医者さんのサイトやLPを作り上げました。ツールを操作して、デザインを画面として形にする力は身についたはずです。ただ、その作品を誰かに見せて、これは誰のための、何を達成するデザインなのかと聞かれたら、うまく答えられないかもしれません。あの制作物は見本の模写で、誰のために・何を達成するかを決めていたのは、あなたではなく見本の作り手だったからです。このレッスンでやるのは、模写した制作物を、誰のための・何を達成するデザインだったかで読み解き、作れる力にUX/UIの視点を足すことです。作れることと、誰のために作るかを考えられることは別の力で、後者がこの先の学びの土台になります。

作れる力にUXの視点を足す

Figma教材で身につけたのは、見本をもとにデザインを画面として形にする技術、つまりUIを作る力です。ただ、その画面が使う人にとって使いやすいかという観点までは、まだ詰めていません。この教材で加えるのは、見本のない案件を相手に、画面が生み出す体験の全体(UX)を見わたして使いやすさを設計する視点です。UXという言葉は専門的に見えますが、中身は使う人の体験そのものです。

UX = 体験の全体
UI
画面・文字・ボタン・色
知る → 調べる → 予約する → 通う までの流れ全体
UIはUXの一部。Figmaで身につけたのは画面を形にする力(UI)、この教材で加えるのは体験全体を設計する視点(UX)。見た目の完成は手段であって、ゴールそのものではない。
✓ Point !
見た目の完成はゴールではない

整った画面は、使う人が迷わず目的を達成できて初めて意味を持ちます。見た目を仕上げる作業は、良い体験を届けるための手段です。作れるようになった今こそ、何のために作るのかを問い直すときです。

作れるだけでは、きれいでも使われないものが生まれることがあります。誰のどんな体験を良くするのかという視点を持つと、同じ制作物の見え方が変わります。まずはこの視点で、模写した作品を見直してみましょう。

この視点は、就職や案件の場でも武器になります。作品を見せるとき、誰のどんな課題を、どう解いたのかまで語れると、提案の説得力が大きく変わります。

なぜ今UX/UIの視点が求められるのか

見た目を整えたり初稿を作ったりする作業は、AIとデザインシステムの普及で以前より短い時間で形にできるようになりました。Figmaがデザイナー約2,500人に行った調査(2025年)では、インターフェースの初稿をAIで作る人が22%、デザイン素材を生成する人が33%にのぼります。作る作業そのものは、誰でも速くこなせる方向に進んでいます。

速くなった作る作業
  • 見た目を整える
  • 初稿づくり
  • 素材の生成
価値が移る人の判断(UX)
  • 誰のために・何を・なぜ作るか
  • 使いやすいかを確かめる
  • 最終品質の責任
作る速さでは差がつきにくい。価値は「誰のために作るか・使いやすいかを考える力」へ移っている。

作る速さで差がつきにくくなるほど、価値のある力は別の場所へ移ります。デザインの研究機関Nielsen Norman Groupは、デザインシステムの標準化とAIの普及で表層のUI制作はコモディティ化し、UXとUIを分けて考える力がこれまで以上に重要になっていると指摘しています。

✓ Point !
作れるだけでは差がつきにくい

AIが速くこなすのは、作る作業です。人に残るのは、誰のために・何を・なぜ作るかを決め、それが使いやすいかを確かめる判断です。この判断こそがUX/UIの視点で、価値はここへ移っています。

この変化は、仕事のつながりやすさにも表れています。転職市場の動向調査(doda 2026年上半期)や求人サイトの集計では、定型的な制作が中心のWebデザイナーの求人がAIの影響で伸び悩む一方、リサーチから設計・検証までを担うUI/UXデザイナーの需要は高く、企業が人材を探す売り手市場が続いています。同じFigmaの調査でも、80%を超える人が、AIと協働するスキルは今後のキャリアに欠かせないと答えています。

だからこそ、単に見た目を作れるだけでなく、リサーチから設計、検証までを一貫して担えるほど、任される仕事の幅は大きく広がります。

誰のため? 使う人を一人に絞る

模写した歯医者LPを実際に開くのは、どんな人でしょうか。誰のためかと問われるとつい患者さんとひとくくりにしがちですが、同じ患者さんでも置かれた状況によって、知りたい情報も、抱える不安もまるで違います。下の三タイプを見比べてみてください。

急に歯が痛くなった人
「今すぐ診てほしい」。知りたいのは診療時間・当日予約
検診を先延ばしにしている人
面倒・こわい。知りたいのは通いやすさ・院内の雰囲気
治療が苦手で足が遠のく人
強い不安。知りたいのは痛みへの配慮・利用者の声
同じ「患者さん」でも、知りたい情報も不安も違う。具体的な一人に絞ると、載せる情報の判断基準ができる。

みんなに向けて作ると、結局は誰の心にも届きにくくなります。使う人を具体的な一人まで絞ると、載せる情報や言葉づかい、写真のトーンを選ぶ基準が生まれます。ここで手がかりにするのは、来てほしいという願望ではなく、実際にそのLPを見て来院する人です。まずはその一人を、具体的に思い描いてみましょう。この視点は、この先の通し課題でも土台になります。ジムの予約サービスを設計するときも、実際に使う人を思い描き、リサーチで確かめるところから始めます。

Q
確認クイズ 1
歯医者LPを作るとき、より良い設計につながる考え方はどれでしょう?
正解です!
使う人を具体的な一人まで絞ると、載せる情報や言葉の判断基準ができます。みんな向けに情報を盛り込むほど、かえって要点はぼやけてしまいます。
惜しい!
幅広く載せる、見た目を最優先する、そのまま真似る、はいずれも使う人を起点にしていません。まず具体的な一人を思い描くBが、良い設計の出発点です。

何を達成する? 成功の基準を決める

LPには、達成したい目的があります。予約や電話といった行動を促すこともあれば、まずは安心してもらうことが目的のこともあります。目的を言葉にしていないと、そのデザインが良かったのかを判断できません。

しかも目的は、二つの立場の重なりで決まります。事業側のねらい(予約を増やしたい)と、使う人のゴール(不安なく予約したい)です。この二つが重なる点が、そのLPにとっての成功にあたります。成功の基準を先に言葉にしておくと、あとで使ってもらって直す検証の場面でも、良し悪しを測れます。

事業側のねらいと使う人のゴールが重なる点が、このLPの成功
成功はどちらか片方ではなく、二つが重なる点。作り始める前に言葉にしておく。
Q
確認クイズ 2
模写したLPを読み解くとき、成功の基準として最も適切なのはどれでしょう?
正解です!
成功は、想定した使う人が目的を達成できたかで測ります。前のセクションのとおり誰のためかを絞ったうえで、事業のねらいと使う人のゴールが重なる点を、先に言葉にしておきます。
惜しい!
自分の満足や流行、情報量は、成功の基準にはなりません。誰のために、何が達成できたら成功かを決めるBが、読み解きの軸になります。

七つの視点で読み解く(演習)

UXデザインは、ゴールを決めてから、使う人を理解し、形にして、試して直すまでの流れで進みます。全体は七つの視点に分けられます。詳しい進め方はこのあとのレッスンで学ぶので、ここでは、模写した作品を読み解く物差しとして使います。

UXデザインの七つの視点。ゴール定義から続けて改善まで並び、⑦から①へ戻る反復。⑥⑦は模写では扱わない領域
今回はこの七つを、模写した制作物に埋め込まれた設計判断を読み解く物差しに使う(⑥⑦はこの先で学ぶ領域)。

ここで、一つ前提を確かめます。Figmaで作った歯医者LPは、見本の模写でした。つまり「誰のために・何を・どう見せるか」という判断の多くは、見本の作り手がすでに下していて、あなたはそれを正確に形にしていました。だからこの演習では、見本にどんな判断が埋め込まれていたかを、七つの視点で読み解きます。完成したデザインから設計の意図を逆算して読み取ることは、UXデザインの最初の一歩です。そのうえで、これまで見本任せだった判断を自分で下せるようになることが、この先の学びのゴールになります。

この七つの視点は、これから作るすべての制作物に使える点検リストになります。新しい案件でも、作り始める前と作り終えたあとに一度ずつ通すと、独りよがりな設計を防げます。

演習 1-1

STEP 1:模写した作品を開く

Figma教材で見本を模写して仕上げた歯医者サイト、またはLPを開きます。完成版を一つ選び、これを「読み解くための教材」として使います。

STEP 2:七つの視点で読み解く

見本には、作り手の設計判断が埋め込まれています。下の七つの視点で、その判断を読み取ってみましょう。①〜⑤は見本から読み取れます。⑥と⑦は模写では扱っていない領域なので、これから学ぶ内容として印を付けるだけで構いません。

  1. ゴール:このLPは、何が起きたら成功だと想定して作られていそうですか。どんな行動(予約・電話など)を促そうとしているか、見本から読み取ってみましょう。
  2. 使う人の理解:どんな人に向けたLPだと読み取れますか。写真や言葉づかいから、想定されている相手を推測してみましょう。
  3. 価値:その人にとって「見てよかった」と思える点を、見本はどう用意していますか。
  4. 情報の整理:情報はどんな順で並んでいますか。なぜこの順なのか、意図を推測してみましょう。
  5. 画面(UI):文字の大きさやボタン、写真は、想定した相手が安心して使える作りになっていますか。
  6. 試して直す:使う人に見てもらい、感想をもとに直す工程です。模写では扱っていません。これからこの教材で学びます。
  7. 続けて改善:公開したあとに良くしていく視点です。これも模写では扱っておらず、この先で学びます。

STEP 3:気づきをまとめる

見本の作り手が下していた判断(①〜⑤で読み取れたもの)と、これまで自分では決めていない・模写では扱わなかった領域(⑥⑦、および①〜⑤で「自分ならどう決めるか」)を分けて整理します。この教材で自分が身につけたい判断を一つ、一言で書き添えましょう。

できあがるもの

  • 読み解きシート(七つの視点で読み取った内容の記入)
  • 気づきのまとめ(見本が決めていた判断・これから自分で決める領域・身につけたい判断を一つ)
書けたら下の理解度チェックと照らして読み返し、不安なところがあれば、コーチに相談してみましょう。
チェック
理解度チェック
UXとUIの違いを、自分の作品を例に説明できる
UXは使う人が得る体験の全体、UIはその接点となる画面まわりです。Figma教材で作ったのはUI(画面)で、それが生み出す体験の全体を設計する視点がUXです。見た目の完成は、良い体験を届けるための手段にあたります。
誰のため・何を達成するかを、具体的に言葉にできる
誰のためかは、思いつく全員ではなく、実際に使う具体的な一人まで絞ります。何を達成するかは、事業側のねらいと使う人のゴールが重なる点を、成功の基準として作る前に言葉にします。
模写した制作物を、七つの視点で読み解ける
ゴール、使う人の理解、価値、情報の整理、画面、試して直す、続けて改善の七つで、模写した作品に埋め込まれた設計判断を読み解きます。見本の作り手が決めていた判断と、まだ自分では決めていない・模写では扱わなかった領域(試して直す・続けて改善)を切り分け、これから身につけたい判断を一つ挙げられれば十分です。