第2章
依頼書の読み解き — 通し課題としてリフトの案件を受け取る
レッスン 2-1 UXリサーチと要件定義 ⏱ 所要時間:約90分
GOAL
このレッスンのゴール
⏱ 約90分
  • 依頼書の読み解きがUXプロセスの出発点であることを、通し課題の起点として説明できる
  • 依頼書の内容を、分かっていること・曖昧なこと・欠けていることの3つに仕分けた読解メモを作成できる
  • 欠けている情報を、次のヒアリングで確かめる質問リストにまとめられる
通し課題

前回までに身につけたのは、第1章で学んだUX/UIの基礎です。今回から修了制作まで同じ案件を担当し、まずは依頼書を読み解きます。仕上げる成果物は、依頼書の読解メモヒアリング質問リストの2点です。

初めての案件は、友人の紹介で受けた、あるジムのスマホ予約サービスでした。届いた依頼書には、やりたいことこそ書いてあるものの、作る範囲も、どうなれば成功なのかも、はっきり書かれていません。早く画面を描き始めたくなりますが、ここで一度立ち止まります。この章でやるのは、その依頼書を丁寧に読み解き、何が分かっていて何が分からないのかを仕分けて、次のヒアリングで確かめる質問リストまで用意することです。書いてあることを鵜呑みにせず、事実と願望を分け、書かれていない点にも目を向ける——その読み方を、実際の依頼書で身につけます。

今回から通し課題が始まる

今回から、修了制作まで一つの案件を担当します。友人の紹介で受注した、パーソナルトレーニングジム「リフト」のスマホ予約サービスの制作です。担当するオーナーは、青葉町で1人でジムを営む織田さんです。

1
依頼書の読解
今回・起点
2
ヒアリング
3
ユーザーインタビュー
4
要件・価値定義
5
情報設計・UI設計
6
プロトタイプ・検証
7
修了制作
依頼書の読解が通し課題の起点。ここで作る読解メモと質問リストが、以降すべての工程の土台になる。

このレッスンは、その長い工程の出発点です。ここで作る読解メモと質問リストが、次のヒアリングでそのまま使う材料になります。最初の読み解きの質は、そのあとのリサーチや設計すべてに響くので、いきなり作り始めず、読むことに時間を使いましょう。

案件依頼書を受け取る

初回の打ち合わせの前に、織田さんから届いた情報が次の依頼書です。実務では、案件はこの一枚を受け取るところから始まります。まずはひと通り目を通しましょう。

BRIEF 案件依頼書(初回打ち合わせ前に受領)

友人の紹介で引き受けた、パーソナルトレーニングジム「リフト」オーナー・織田さんの案件です。初回打ち合わせの前に、織田さんから受け取った情報をまとめています。空欄や曖昧な箇所は、このあとのヒアリングであなたが埋めます。

クライアントパーソナルトレーニングジム「リフト」/オーナー兼トレーナー 織田さん(1人で経営)
店舗青葉町・駅から徒歩6分・1店舗/完全予約制のマンツーマン指導/平日10-21時・土10-18時
目的(オーナーの言葉)「電話とLINEの予約対応をラクにしたい。お客さまがスマホで予約できるように」
成功の基準未確定(ヒアリングで確認する)
ターゲット(オーナーの言葉)「今のお客さまと、できれば新しい人にも。若い人とか」(実像はリサーチで具体化する)
現在の予約運用電話+LINEの個別メッセージ(実態はヒアリングで確認する)
作ってほしいものスマホで使える予約サービスのデザイン一式(範囲=スコープは自分で提案する)
トーン・ブランド支給のロゴとブランドカラー(深緑×オフホワイト)を使用。怖くない・続けられそうな雰囲気にしたい
制約スマホ縦画面を想定/ロゴの色変更・変形は不可/決済機能は今回不要(店頭払いを継続)
納期2か月後の開業4周年キャンペーンまで
費用本課題では扱わない

支給物:ロゴ/ブランドカラー指定(深緑 #2F5D50・オフホワイト #F6F1E7)/店舗・トレーニングの写真/現行の料金表チラシ

⬇ 支給物一式をダウンロード(ZIP)

案件依頼書・ロゴ・写真・料金表を同梱

読んでみると、決まっていることと決まっていないことが入り混じっています。成功の基準は空欄のままで、ターゲットも願望の域を出ていません。どこが事実で、どこが書き手の期待なのかを見分けられると、最初の返信から的を外さずに済みます。

Q
確認クイズ 1/3
次のうち、この依頼書からそのまま確定した事実として読み取れるものはどれでしょう?
正解です!
決済機能は今回不要と制約にはっきり書かれているので、Bが確定した事実です。お客さまの実像や成功の基準はまだ依頼書になく、これから確かめる内容でした。
惜しい!
A・C・Dは、依頼書には書かれていない推測や未確定の項目です。明記されているのは、決済機能を今回作らないというB。書いてある事実と、そうでないものを分けて読みましょう。

依頼書が曖昧なのは実務では普通

情報が足りないのは、織田さんの準備不足ではありません。多くのクライアントは、自分の課題を正確な言葉にできないまま依頼します。デザインの専門家ではないので、何をどこまで伝えれば十分なのかが分からないからです。

✓ Point !
曖昧さは、埋める前提で受け取る

依頼書は完成した仕様書ではなく、対話の出発点です。曖昧な点はこちらの推測で埋めず、質問して一緒に固めるものだと構えておくと、足りない情報を前にしても慌てずに済みます。

だからこそ、書かれた言葉をそのまま受け取らず、どこが確かでどこが未確定かを見分けることが重要です。まだ決まっていない部分を切り分けられると、初回打ち合わせで何を聞けばよいかが自然に見えてきます。

依頼書を3つに仕分ける

依頼書を読み解く具体的なやり方が、内容を3つに仕分けることです。分かっていること、曖昧なこと、欠けていることの3つに分けます。

1
分かっていること
1店舗・完全予約制/平日10-21時・土10-18時/ロゴの色変更・変形は不可/決済は今回不要/納期は2か月後。そのまま前提にできる。
2
曖昧なこと
目的「ラクにしたい」の程度が不明/ターゲット「若い人」は願望/作る範囲は未定。確認して絞る。
3
欠けていること
成功の基準が未確定/予約運用の実態/お客さまの実像や人数/競合の状況。抜けに気づいて確認する。
分かっていることは前提に、曖昧なことと欠けていることは確認の対象にする。
✓ Point !
欠けている情報ほど、後で効いてくる

見落としやすいのは、そもそも書かれていない情報です。成功の基準やお客さまの実像のような抜けに気づけると、方向を大きく取り違えて作り直す事態を防げます。

分かっていることは、そのまま前提にできます。曖昧なことと欠けていることは、これから確認する対象です。この線引きが、そのまま読解メモの中身になります。打ち合わせ前に3つへ仕分けておくと、確認すべき点が一覧になり、限られた打ち合わせ時間を無駄なく使えます。

Q
確認クイズ 2/3
依頼書を3つに仕分けるとき、欠けていること(そもそも書かれていない情報)に当たるのはどれでしょう?
正解です!
成功の基準は依頼書では空欄で、書かれていない情報です。営業時間や制約、画面の前提ははっきり書かれているので、分かっていることに入ります。
惜しい!
A・B・Dはいずれも依頼書に明記された分かっていることです。空欄のまま残っているのは成功の基準(C)。書かれていない情報こそ、見落とさず確認の対象にしましょう。

確かめることを質問に変える(演習)

曖昧なことと欠けていることは、そのままにせず質問の形に変えます。これが、次のヒアリングで使う質問リストになります。

依頼書の曖昧・欠落
  • 成功の基準が未確定
  • ターゲットは「若い人」という願望
  • 予約運用の実態が不明
ヒアリングで確かめる質問
  • どうなれば成功と言えますか?
  • 今通っているお客さまは、どんな方が多いですか?
  • 今の予約は1日何件くらいで、どう対応していますか?
依頼書の曖昧・欠落を、相手が答えやすい具体的な質問に変える。

質問は、相手が答えやすい具体的な問いにするのがコツです。抽象的に聞くと、また曖昧な答えが返ってきます。それでは実際に、手を動かして読解メモと質問リストを作りましょう。

Q
確認クイズ 3/3
依頼書の成功の基準の欄が空欄でした。担当デザイナーとして、最初にとるべき行動はどれでしょう?
正解です!
空欄は、こちらの推測で埋めるのではなく質問にして確かめます。曖昧さは埋める前提で受け取り、ヒアリングで一緒に固めるのが正解でした。
惜しい!
自分で決めて進める(A)と、推測のずれが後の作り直しにつながります。空欄は質問に変えて、ヒアリングで確かめるC。曖昧な点はこちらで埋めず、対話で固めましょう。
演習 2-1

STEP 1:依頼書を3つに仕分ける(読解メモ)

  • 上の依頼書を読み、分かっていること・曖昧なこと・欠けていることの3つに書き出す
  • それぞれ最低3項目ずつ挙げる(例:分かっていること=完全予約制/曖昧なこと=ターゲットの実像/欠けていること=成功の基準)

STEP 2:確かめる質問リストを作る

  • 曖昧なことと欠けていることを、ヒアリングで聞く質問に変える
  • 相手が答えやすいよう、具体的な問いにする(5問以上)

完了条件(作成物)

  • 3つに仕分けた読解メモ(各3項目以上)
  • ヒアリング質問リスト(5問以上・曖昧なことと欠けていることに対応)
  • AI活用メモ(AIを補助に使った場合のみ):質問案の整理などにAIを使ったなら、どこを自分で判断したかを1〜2行で書き添える

ここで作る読解メモと質問リストは、次のヒアリングでそのまま使います。丁寧に用意しておくほど、初回打ち合わせでの聞き漏らしが減り、一度の打ち合わせで必要な情報を引き出せます。

CHECK
理解度チェック
今回の通し課題で、自分が何を担当するのか説明できる
パーソナルトレーニングジム「リフト」のスマホ予約サービスを、依頼書の読み解きから修了制作まで一貫して担当します。今回作る読解メモと質問リストは、次のヒアリング以降のすべての工程の土台になります。
依頼書を、分かっていること・曖昧なこと・欠けていることの3つに仕分けられる
明記された事実は分かっていること、書いてあるが解釈に幅がある内容は曖昧なこと、そもそも書かれていない情報は欠けていることです。営業時間や制約は分かっていること、成功の基準やお客さまの実像は欠けていることに入ります。
依頼書の不明点を、ヒアリングの質問に変えられる
曖昧なことと欠けていることは、こちらの推測で埋めず、答えやすい具体的な質問に変えます。成功の基準が空欄なら、どうなれば成功と言えるかを直接確かめる問いを用意します。