- ✓依頼書の読み解きがUXプロセスの出発点であることを、通し課題の起点として説明できる
- ✓依頼書の内容を、分かっていること・曖昧なこと・欠けていることの3つに仕分けた読解メモを作成できる
- ✓欠けている情報を、次のヒアリングで確かめる質問リストにまとめられる
前回までに身につけたのは、第1章で学んだUX/UIの基礎です。今回から修了制作まで同じ案件を担当し、まずは依頼書を読み解きます。仕上げる成果物は、依頼書の読解メモとヒアリング質問リストの2点です。
初めての案件は、友人の紹介で受けた、あるジムのスマホ予約サービスでした。届いた依頼書には、やりたいことこそ書いてあるものの、作る範囲も、どうなれば成功なのかも、はっきり書かれていません。早く画面を描き始めたくなりますが、ここで一度立ち止まります。この章でやるのは、その依頼書を丁寧に読み解き、何が分かっていて何が分からないのかを仕分けて、次のヒアリングで確かめる質問リストまで用意することです。書いてあることを鵜呑みにせず、事実と願望を分け、書かれていない点にも目を向ける——その読み方を、実際の依頼書で身につけます。
今回から通し課題が始まる
今回から、修了制作まで一つの案件を担当します。友人の紹介で受注した、パーソナルトレーニングジム「リフト」のスマホ予約サービスの制作です。担当するオーナーは、青葉町で1人でジムを営む織田さんです。
このレッスンは、その長い工程の出発点です。ここで作る読解メモと質問リストが、次のヒアリングでそのまま使う材料になります。最初の読み解きの質は、そのあとのリサーチや設計すべてに響くので、いきなり作り始めず、読むことに時間を使いましょう。
案件依頼書を受け取る
初回の打ち合わせの前に、織田さんから届いた情報が次の依頼書です。実務では、案件はこの一枚を受け取るところから始まります。まずはひと通り目を通しましょう。
友人の紹介で引き受けた、パーソナルトレーニングジム「リフト」オーナー・織田さんの案件です。初回打ち合わせの前に、織田さんから受け取った情報をまとめています。空欄や曖昧な箇所は、このあとのヒアリングであなたが埋めます。
| クライアント | パーソナルトレーニングジム「リフト」/オーナー兼トレーナー 織田さん(1人で経営) |
| 店舗 | 青葉町・駅から徒歩6分・1店舗/完全予約制のマンツーマン指導/平日10-21時・土10-18時 |
| 目的(オーナーの言葉) | 「電話とLINEの予約対応をラクにしたい。お客さまがスマホで予約できるように」 |
| 成功の基準 | 未確定(ヒアリングで確認する) |
| ターゲット(オーナーの言葉) | 「今のお客さまと、できれば新しい人にも。若い人とか」(実像はリサーチで具体化する) |
| 現在の予約運用 | 電話+LINEの個別メッセージ(実態はヒアリングで確認する) |
| 作ってほしいもの | スマホで使える予約サービスのデザイン一式(範囲=スコープは自分で提案する) |
| トーン・ブランド | 支給のロゴとブランドカラー(深緑×オフホワイト)を使用。怖くない・続けられそうな雰囲気にしたい |
| 制約 | スマホ縦画面を想定/ロゴの色変更・変形は不可/決済機能は今回不要(店頭払いを継続) |
| 納期 | 2か月後の開業4周年キャンペーンまで |
| 費用 | 本課題では扱わない |
支給物:ロゴ/ブランドカラー指定(深緑 #2F5D50・オフホワイト #F6F1E7)/店舗・トレーニングの写真/現行の料金表チラシ
案件依頼書・ロゴ・写真・料金表を同梱
読んでみると、決まっていることと決まっていないことが入り混じっています。成功の基準は空欄のままで、ターゲットも願望の域を出ていません。どこが事実で、どこが書き手の期待なのかを見分けられると、最初の返信から的を外さずに済みます。
依頼書が曖昧なのは実務では普通
情報が足りないのは、織田さんの準備不足ではありません。多くのクライアントは、自分の課題を正確な言葉にできないまま依頼します。デザインの専門家ではないので、何をどこまで伝えれば十分なのかが分からないからです。
依頼書は完成した仕様書ではなく、対話の出発点です。曖昧な点はこちらの推測で埋めず、質問して一緒に固めるものだと構えておくと、足りない情報を前にしても慌てずに済みます。
だからこそ、書かれた言葉をそのまま受け取らず、どこが確かでどこが未確定かを見分けることが重要です。まだ決まっていない部分を切り分けられると、初回打ち合わせで何を聞けばよいかが自然に見えてきます。
依頼書を3つに仕分ける
依頼書を読み解く具体的なやり方が、内容を3つに仕分けることです。分かっていること、曖昧なこと、欠けていることの3つに分けます。
見落としやすいのは、そもそも書かれていない情報です。成功の基準やお客さまの実像のような抜けに気づけると、方向を大きく取り違えて作り直す事態を防げます。
分かっていることは、そのまま前提にできます。曖昧なことと欠けていることは、これから確認する対象です。この線引きが、そのまま読解メモの中身になります。打ち合わせ前に3つへ仕分けておくと、確認すべき点が一覧になり、限られた打ち合わせ時間を無駄なく使えます。
確かめることを質問に変える(演習)
曖昧なことと欠けていることは、そのままにせず質問の形に変えます。これが、次のヒアリングで使う質問リストになります。
- 成功の基準が未確定
- ターゲットは「若い人」という願望
- 予約運用の実態が不明
- どうなれば成功と言えますか?
- 今通っているお客さまは、どんな方が多いですか?
- 今の予約は1日何件くらいで、どう対応していますか?
質問は、相手が答えやすい具体的な問いにするのがコツです。抽象的に聞くと、また曖昧な答えが返ってきます。それでは実際に、手を動かして読解メモと質問リストを作りましょう。
STEP 1:依頼書を3つに仕分ける(読解メモ)
- 上の依頼書を読み、分かっていること・曖昧なこと・欠けていることの3つに書き出す
- それぞれ最低3項目ずつ挙げる(例:分かっていること=完全予約制/曖昧なこと=ターゲットの実像/欠けていること=成功の基準)
STEP 2:確かめる質問リストを作る
- 曖昧なことと欠けていることを、ヒアリングで聞く質問に変える
- 相手が答えやすいよう、具体的な問いにする(5問以上)
完了条件(作成物)
- 3つに仕分けた読解メモ(各3項目以上)
- ヒアリング質問リスト(5問以上・曖昧なことと欠けていることに対応)
- AI活用メモ(AIを補助に使った場合のみ):質問案の整理などにAIを使ったなら、どこを自分で判断したかを1〜2行で書き添える
ここで作る読解メモと質問リストは、次のヒアリングでそのまま使います。丁寧に用意しておくほど、初回打ち合わせでの聞き漏らしが減り、一度の打ち合わせで必要な情報を引き出せます。