第2章
クライアントヒアリング — 相手の言葉で聞いてゴールを定義する
レッスン 2-2 UXリサーチと要件定義 ⏱ 所要時間:約120分
GOAL
このレッスンのゴール
⏱ 約120分
  • ヒアリングで引き出す4つの対象(ビジネス目標・成功指標・スコープ・制約)を説明できる
  • オープンとクローズドの質問と掘り下げを使い分け、専門用語を相手に伝わる言葉へ言い換えられる
  • クライアント役(織田さん)へのヒアリングから、ヒアリング記録とゴール定義シートを作成できる
通し課題

前回(2-1)では、織田さんの依頼書を読み解き、読解メモと質問リストを作りました。今回はその質問を、クライアント役の織田さんに実際にぶつけてヒアリングします。仕上げる成果物は、ヒアリング記録ゴール定義シートの2点です。

前回の質問リストを手に、いよいよ織田さんとの初回打ち合わせです。ところが予約をラクにしたいと言われたきり話が進まず、こちらがワイヤーフレームと切り出すと、織田さんはきょとんとして聞き返してきます。相手はトレーニングのプロで、ITやデザインの言葉には馴染みがありません。この章でやるのは、その織田さんから、ビジネスのゴールと、どうなれば成功と言えるかの数字(KPI)を引き出し、ゴール定義シート1枚にまとめることです。話を広げて掘り下げて確認するという順で質問し、専門用語は相手に伝わる言葉へ言い換えながら聞き取ります。要望をそのまま書き取るのでも、専門用語で押し切るのでもなく、相手の言葉で聞きながらゴールの中身を一緒に決める、その聞き方を実際のヒアリングで身につけます。

ヒアリングで持ち帰るものを先に決める

ヒアリングは、思いついた順に質問することではありません。何を持ち帰るかを先に決めておくと、聞き漏らしが減ります。

1
ビジネス目標
何のために作るか
2
成功指標(KPI)
どうなれば成功か=数字
3
スコープ
今回つくる範囲・やらないこと
4
制約
守るべき条件
この4項目が「ゴール定義シート」の土台になる
ヒアリングは、この4項目を埋めるための情報収集。4本がそろうと次に作るもののゴールが定まる。

引き出す対象は、ビジネス目標・成功指標(KPI)・スコープ・制約の4つです。この4つが埋まれば、次に作るもののゴールが定まります。

✓ Point !
成功指標は数字で聞く

目的だけでなく、どうなったら成功かを数字で聞くのが要点です。予約対応をラクにしたいという要望で止めず、何がどれだけ変われば成功かまで引き出すと、後の判断基準になります。

打ち合わせの前に、前回の質問リストをこの4つの対象に振り分けておきましょう。持ち帰る項目を先に決めておくと、雑談が続いても話を本題に戻せて、後日の聞き直しも減らせます。

Q
確認クイズ 1/3
織田さんが「予約をラクにしたい」と話しました。成功指標(KPI)として、ヒアリングで確認すべきことはどれでしょう?
正解です!
目的の裏には成功の基準があります。ラクにしたいを対応時間や件数などの数字まで具体化すると、作ったものが成功したかを判断できます。デザインや競合調べは後の工程です。
惜しい!
要望をそのまま書き取る(D)と、成功の基準が決まりません。まず数字で成功指標を確認するのが正解(B)。デザインや競合調べは、ゴールが定まってからの工程です。

広げて掘って確認する質問の技法

相手が自由に話せるように広げ、要点を掘り下げ、最後に認識を確認する。この順番が質問の基本です。

質問の流れの3ステップ。オープン質問で広げ、具体化・掘り下げで対応時間や件数などの数字へ落とし、クローズド質問で認識を確認する。表面の要望から数字の成功指標まで掘る
図:オープンで広げ、掘り下げて数字にし、クローズドで確認する。表面の要望から数字の目標まで掘る。

序盤はオープン質問で状況を広く聞き、あいまいな答えには具体例をたずね、なぜを重ねて数字の目標まで掘ります。最後にクローズド質問で認識を合わせます。

✓ Point !
数字が出るまで掘り下げる

予約をラクに、のような答えで止めず、どのくらい・何件・何分と数字が出るまで掘り下げます。数字が出れば、それがそのまま成功指標になります。逆に、はい・いいえで答えさせる質問ばかりだと、相手の本音ではなくこちらの仮説を確認するだけになります。

質問はオープンで始めてクローズドで締める、と意識しましょう。技法を意識して切り替えると、同じ時間でも引き出せる話の深さが変わります。

ここで用語を整理します。オープン質問は、はい・いいえでは答えられない自由回答の問いです。困っている場面を教えてください、のように相手に語ってもらい、事実やエピソードを引き出します。クローズド質問は、はい・いいえや選択で答える問いで、決済は今回は不要ですね、のように認識を確認するときに向いています。序盤で広げるときはオープン、終盤で固めるときはクローズド、と場面で切り替えます。

Q
確認クイズ 2/3
ヒアリングの序盤、織田さんに今の予約対応の状況を自由に話してもらいたい場面です。最も適した質問はどれでしょう?
正解です!
Cは自由に語れるオープン質問で、序盤に状況を広げるのに最適です。Aは誘導ぎみ、BとDははい・いいえで閉じるクローズド質問。クローズドは終盤の認識合わせで使うのがコツです。
惜しい!
A・B・Dは、はい・いいえや選択で閉じるクローズド質問です。序盤で自由に語ってもらうには、オープン質問のCが適します。クローズドは、終盤に認識を確認する場面で使います。

織田さんの言葉で話す(専門用語を使わない)

どんなに良い質問でも、言葉が通じなければ答えは返りません。専門用語は、相手に伝わる言い方へ言い換えます。

つい使う専門用語織田さんに伝わる言い方
ワイヤーフレーム画面のざっくりした下書き
ペルソナどんなお客さまを想定するか
スコープ今回つくる範囲
成功指標(KPI)どうなったら成功と言えるか
UIお客さまが見て触れる画面

相手の仕事や日常に置き換えて話すと、さらに伝わります。伝わったかどうかは、相手の反応で確かめるようにしましょう。

✓ Point !
反応を見ながら言い直す

用語を言い換えても、伝わったかは相手の表情や返事で分かります。きょとんとされたら、別の言い方や身近な例に置き換えて言い直します。分かったふりのまま進めると、後で認識のズレになります。

専門用語を避け、相手が毎日使っている言葉で聞くことを意識してください。この言い換えの力は、エンジニアや他職種との打ち合わせでも効き、専門が違う相手とも同じイメージを共有できます。

Q
確認クイズ 3/3
織田さんに、どんなお客さまを想定するかをたずねると「若い人に来てほしいですね」と返ってきました。ヒアリング担当として適切な対応はどれでしょう?
正解です!
オーナーの願望と実際の客層はずれることがあります。用語で押す(C)のではなく、いまの客層まで日常の言葉で具体的に掘り下げるのが正解です。ずれは、後のリサーチで確かめます。
惜しい!
願望をそのまま確定する(A)と、実際の客層とずれたまま進みます。専門用語で押す(C)のも逆効果。いまの客層まで掘り下げて聞く(B)のが、掘り下げと言い換えの両方を使えています。

演習:Gem①にヒアリングしてゴール定義シートにまとめる

ここからは実践です。クライアント役の織田さんを生成AIに演じてもらい、これまでの聞き方を使ってヒアリングします。相手はAIなので、何度でも遠慮なく質問をやり直せます。

ビジネス目標
予約対応の手間を減らし、指導に集中できるようにする
成功指標(KPI)
電話・LINEの予約対応を週◯時間削減/スマホ予約◯%
スコープ
やる=予約・空き枠表示/やらない=決済(店頭払い継続)
制約
スマホ縦画面/ロゴの色変更・変形不可/深緑×オフホワイト
ターゲット
今の会員(オーナーの言葉)+実像は後のリサーチで確認
この1枚が今回作る成果物のゴール。数字はヒアリングで自分が埋める(記入例は薄く表示)。

クライアント役(織田さん)を設定する

織田さん役は、設定済みのAI(Gem①)が演じます。下のボタンから開いて、そのまま話しかけられます。相手はAIなので、何度でも遠慮なく質問をやり直せます。

💬 Gem①(クライアント役・織田さん)を開く

ボタンから設定済みのGemが開きます。Googleアカウントでのログインが必要です。

実在する個人が特定できる情報や、業務上の機密は入力しないでください。

演習 2-2
📋 事前準備
  • 前回(2-1)の読解メモと質問リストを、手元に開いておく
  • 上のボタンから Gem①(織田さん役)を開けるよう、Googleアカウントでログインしておく
  • ゴール定義シートを書き込む場所(メモ帳やドキュメント)を用意する

STEP 1:織田さん役(Gem①)を開く

  • 上の「💬 Gem①を開く」ボタンから、設定済みの織田さん役を開く
  • AIが「はじめまして」と返したら、ヒアリング開始の準備が整った合図です

STEP 2:質問リストを使ってヒアリングする

  • Gemとの対話は、音声入力を活用して実際の会話のように進める
  • 前回作った質問を、オープン質問から順にぶつける
  • あいまいな答えは具体化し、成功の基準は数字が出るまで掘り下げる
  • 専門用語は、織田さんに伝わる言葉へ言い換える
  • 最後に要点を復唱し、この理解で合っているかをクローズド質問で確認する

STEP 3:ゴール定義シートにまとめる

引き出した内容を、次の5項目に整理します。空欄が残ったら、それが次に聞くべき質問です。

項目書く内容
ビジネス目標このサービスで織田さんが達成したいこと
成功指標(KPI)達成できたと判断する具体的な数字
スコープ今回つくる範囲(やること・やらないこと)
制約守るべき条件(画面・ブランド・営業体制など)
ターゲット対象となるお客さま(オーナーの言葉と、後のリサーチで確認する実像のメモ)

完了条件(作成物)

  • ヒアリング記録(織田さん役との対話ログ。オープン質問から具体化・掘り下げ、クローズドで確認までの流れと、数字を引き出した部分を含む)
  • ゴール定義シート(上の5項目を記入したもの)
  • AI活用メモ:どこをAI(織田さん役)に任せ、どこを自分が質問設計・言い換え・判断したかを2〜3行で明記

本番の初回打ち合わせの前に、このAIリハーサルを1回はさむと、質問の抜けや専門用語のクセに自分で気づけます。緊張する本番の練習台として、何度でも使えるのが強みです。

CHECK
理解度チェック
ヒアリングで引き出す4つの対象を挙げて説明できる
ビジネス目標・成功指標(KPI)・スコープ・制約の4つです。特に成功指標は、予約対応をラクにしたいで止めず、対応時間や件数などの数字まで引き出すのが要点でした。この4つが埋まると、次に作るもののゴールが定まります。
オープン/クローズドの質問と掘り下げを使い分けられる
序盤はオープン質問で状況を広げ、あいまいな答えは具体化し、なぜを重ねて数字の目標まで掘ります。最後にクローズド質問で認識を合わせます。はい・いいえで答えさせる質問ばかりでは、相手の本音ではなくこちらの仮説を確認するだけになります。
専門用語を相手の言葉に言い換えて聞ける
ワイヤーフレームは画面のざっくりした下書き、ペルソナはどんなお客さまを想定するか、のように相手に伝わる言い方へ言い換えます。伝わったかは相手の反応で確かめ、きょとんとされたら別の言い方や身近な例で言い直すのがポイントでした。