- ✓オーナーの願望とデータが映す実像を見分け、リサーチの事実からペルソナを作成できる
- ✓リサーチ結果をKJ法で束ね、次の設計につながる実装可能なインサイトを抽出できる
- ✓ペルソナの体験を段階で描き、ペイン(感情の谷)と改善機会を示したカスタマージャーニーマップを作成できる
リフトのオーナー織田さんは、打ち合わせのたびに「若い人に来てほしい」と話していました。ところが、インタビュー記録を読み返すと、実際に通っているのは仕事帰りの20〜40代で、6割が女性、多くが運動初心者です。願望と、データが映す実像はずれていました。この章でやるのは、その実像を土台に中心となる1人へしぼってペルソナを描き、その人が予約に至るまでの体験をカスタマージャーニーマップに起こすことです。前回までに集めたヒアリング・インタビュー・競合分析のデータを、願望に引きずられず、1人の人物像と1本の流れにまとめます。
- ●ゴール定義シート(2-2):ビジネス目標・成功指標・スコープを確認する
- ●インタビュー記録(2-3):ユーザーの声とペイン(つまずき)を確認する
- ●競合UX分析シート(2-4):競合の予約体験の良し悪しを確認する
まず、これから作る2つの成果物の完成形を見ておきましょう。データから起こした代表的ユーザー像(ペルソナ)と、その人が予約に至るまでの体験を段階で並べたカスタマージャーニーマップです。ペルソナの人物が、そのままジャーニーの主役になります。

願望とデータの実像を見分ける
ペルソナは、思いつきの人物設定ではありません。リサーチで分かった事実を、1人の代表的なユーザー像にまとめたものです。
- 「若い人に来てほしい」
- 思い描くのは20代前半の学生
- データの裏づけはない
- 仕事帰りの20〜40代
- 6割が女性
- 多くが運動初心者
織田さんの「若い人に来てほしい」は、データの裏づけがない願望です。実際に通う中心は仕事帰りの20〜40代で、6割が女性、多くが運動初心者でした。この事実がペルソナの土台になります。
オーナーの願望は、これから増やしたい客層の仮説として大切に記録します。ただしペルソナの土台にするのは、いま実際に通っている人のデータです。両者を分けて扱えば、次の要件定義でどこまで狙うかを落ち着いて判断できます。
誰のために作るのかを、手元のデータで確かめてから人物像に落とし込みましょう。願望と実像を分けて示せれば、実務でクライアントの思い込みと調査結果が食い違う場面でも、相手の気持ちを否定せずに、いまのお客さまが迷わない設計から始める提案として順番を整理できます。
手順1:KJ法で束ねてインサイトを抽出する
ばらばらのデータは、そのままではユーザー像になりません。まず似た事実を束ね、その奥にある理由を読み取ります。
KJ法で事実を束ねる

KJ法(親和図法)は、断片的な事実を関連で寄せてテーマを浮かび上がらせる手法です。気づきを1枚1事実でふせんに書き出し、関連するものを寄せてかたまりを作り、中身を言い表す名前を付けます。
1枚のふせんには、事実を1つだけ書きます。複数の内容を詰め込むと、いくつものテーマにまたがってうまく寄せられません。粒をそろえることが、きれいに束ねる前提になります。
事実からインサイトへ昇華させる
インサイトは、事実の要約ではありません。なぜそうなるのかを解釈し、次の設計の糸口まで含めた洞察です。事実から出発し、パターンを見つけ、理由を解釈して、設計の要件へと一段ずつ引き上げます。この順でたどれると、提案の場でなぜその機能が必要かと問われても、事実となぜの解釈、打ち手の順で筋道立てて説明できます。
手元の生成AI(Gemini・ChatGPTなど)は、ふせんの仮のグルーピングや文章の下書きを素早く出せます。ただし、なぜそうなるのかの解釈と、どのインサイトを採るかの取捨選択は必ず自分で行い、最終確認はコーチに委ねます。AIの出力には事実の取り違えや古い情報が混ざるため、鵜呑みにしないでください。
手順2:インサイトからペルソナを作る
インサイトが出たら、それを1人の具体的な人物像に落とし込みます。これがペルソナです。
ペルソナは、決まった項目で1人の人物像を具体的に描いたものです。属性を盛り込みすぎず、設計判断に効く項目にしぼります。中心客がはっきり2タイプに分かれるときだけ、ペルソナは1〜2体まで作ります。
ペルソナの各項目は、インタビューや競合分析のどの事実から来たのかを言える状態にします。根拠を言えない設定は、想像で足したしるしです。事実に裏づけられた項目だけを残しましょう。
迷ったら、その項目が設計の判断に効くかを基準に取捨しましょう。できあがったペルソナは、チームやクライアントと議論するときの共通の判断基準になり、ボタンの文言や予約フローで迷ったら、この人なら迷わないかと問い返して、好みの言い合いではなくユーザー起点で決められます。
手順3:カスタマージャーニーマップで体験を描く
ペルソナができたら、その人が予約という目的を果たすまでの体験を、時間の流れにそって1枚の図にまとめます。これがカスタマージャーニーマップ(CJM)です。作成にはFigmaまたはFigJamを使い(どちらでもかまいません)、横に長いボードを1枚用意して、そこに段階を並べていきます。
カスタマージャーニーマップは、ユーザーがゴールにたどり着くまでの体験を段階ごとに区切り、その流れと気分の浮き沈みを1枚で見えるようにした図です。横軸には、ユーザーが目的を果たすまでの段階(フェーズ)を時系列で並べます。リフトなら、認知(知る)→検討(調べる)→予約→初回来店→継続(通う)という並びです。縦軸には、各段階について次の項目を書き込みます。書き込む中身は、インタビュー記録とペルソナを根拠にし、想像では埋めません。
- 行動:その段階でユーザーが実際にすること(例:スマホでジムを検索する)
- 接点(タッチポイント):ユーザーが触れる手段や画面(例:ホームページ、LINE、電話)
- 思考・感情:そのとき考えたこと、感じたこと。気分の浮き沈みも書く
- 課題(ペインポイント):つまずきや不満(例:営業時間外は電話がつながらない)
図のいちばん下には、段階ごとの気分の上下を感情曲線として線でつなぎます。こうすると、体験のどこで気分が上がり、どこで落ち込むのかがひと目で分かります。

感情の曲線が最も落ち込む谷が、最初に直すべき場面です。リフトでは、予約が電話とLINEだけの段階に谷ができます。改善の優先順位を決める会議でも、ジャーニーマップがあれば、どこから手を付けるかを感覚で決めず、感情の谷が深い段階から着手すると示せます。
行動だけを並べても、どこを直せばよいかは見えません。各段階の思考と感情を書き、曲線が落ち込む谷(ペイン)を見つけると、改善の優先順位が決まります。谷の隣の欄に改善機会を書き添えましょう。
演習:ペルソナとジャーニーマップを作る
ここまでの3つの手順を使い、リフトのリサーチ結果から、ペルソナとカスタマージャーニーマップを作ります。願望と実像を分け、データを土台にすることを忘れずに進めましょう。
ステップ1:KJ法で束ねてインサイトを3つ導く
- インタビュー記録と競合分析シートの気づきを、1枚1事実でふせんに書き出す(FigJam等)
- 関連するふせんを寄せてかたまりを作り、各かたまりに中身を言い表す名前を付ける
- かたまりから、実装可能なインサイトを3つ導く(事実の要約で終わらせない)
ステップ2:ペルソナを1〜2体作る
- 中心客のデータを土台に、名前・年代・生活・利用の場面・ゴール・ペインを書く
- 各項目の根拠になった事実をひとことメモで添える(想像で足さない)
- オーナーの願望(若い層)は、増やしたい層の仮説として別に1行記録する
ステップ3:カスタマージャーニーマップを作る
- FigmaまたはFigJam(どちらでもよい)に、横に長いボードを1枚用意する
- 主役にするペルソナと、そのゴール(例:無理なく予約して通い続ける)を1行で決める
- 予約までの段階(フェーズ)を時系列で横に並べる(認知(知る)→検討(調べる)→予約→初回来店→継続(通う))
- 各段階について、行動(実際にすること)・接点(触れる手段や画面)・思考と感情を書く。中身はインタビュー記録とペルソナを根拠にし、想像で埋めない
- 各段階の感情の上下を線でつなぎ、感情曲線にする
- 感情が最も落ち込む段階(感情の谷=ペイン)と、そこでの接点を特定する
- そのペインの隣に、改善の機会(チャンス=打ち手の糸口)を書き添える
完了条件(提出物)
この成果物は、章の最後でまとめてコーチに提出しましょう。
- 実装可能なインサイト3つ(根拠の事実と、なぜの解釈を1〜2文で添える)
- ペルソナ1〜2体(データの裏づけ、および願望と実像を分けたメモつき)
- カスタマージャーニーマップ(感情の谷=ペインと、改善機会の指摘つき)
- AI活用メモ:グルーピングや下書きのどこを生成AIに任せ、どの解釈・判断を自分が行ったかを2〜3行で書く
進め方のヒント
- インサイトは「事実→なぜの解釈→打ち手の糸口」の順で1文にまとめると書きやすい
- ペルソナの項目は「この設定は、どの事実から来たか」を声に出して確かめる
- ジャーニーは行動だけでなく、思考と感情を必ず書く。谷が見つからないときは感情の欄を見直す
ここで作ったペルソナとカスタマージャーニーマップが、このレッスンの提出物です。次回の要件定義では、ジャーニーで見えたペインと改善機会をもとに、必要な機能を洗い出して優先順位を付けます。感情の谷を埋める設計へと進みます。