第2章
要件定義 — リサーチ結果を要件に落として優先順位をつけて合意する
レッスン 2-6 UXリサーチと要件定義 ⏱ 所要時間:約120分
GOAL
このレッスンのゴール
⏱ 約120分
  • リサーチ結果(ペルソナ・ジャーニー・インサイト)から、作るべき機能とコンテンツを独力で洗い出せる
  • 洗い出した要件を、MoSCoWでMust・Should・Could・Won'tに独力で優先順位づけできる
  • 要件定義書にまとめ、クライアント役に提案してすり合わせ、合意版に更新できる
通し課題

前回(2-5)では、ペルソナとジャーニーマップを作り、リフトのユーザー像とつまずきどころを固めました。今回は、それを作るものの要件に落とし、優先順位をつけてクライアントと合意します。仕上げる成果物は、要件定義書(合意版)の1点です。

リサーチを終えると、あれもこれも作りたくなります。空き枠が見える予約、リマインド、マイページ、口コミ機能。どれも良さそうに見えますが、今回すべてを作る時間はありません。しかも、あなたが良かれと思って決めた要件を、オーナーの織田さんは望んでいないかもしれません。作り始めてから違うと言われれば、時間も信頼も失います。この章でやるのは、前回のリサーチ結果を作るべき機能へ翻訳し、MoSCoWで優先順位をつけて絞り込み、作り始める前に織田さんと合意することです。

リサーチ結果を要件に翻訳する

リサーチで見えたユーザーのつまずきは、そのままでは作れません。ジャーニー上のつまずき(課題)を、それを解く機能やコンテンツに一つずつ対応させるのが、要件への翻訳です。

課題・インサイト ①
  • 空き枠が電話やLINEでしか分からず、予約に何度もやり取りが要る
機能・コンテンツ
  • 空き枠がひと目で分かる予約カレンダー
課題・インサイト ②
  • リマインドがなく予約を忘れ、無断キャンセルにつながる
機能・コンテンツ
  • 予約前日のリマインド通知
課題・インサイト ③
  • 見込み客はネットの情報が古く、料金や予約方法が分からず申込をためらう
機能・コンテンツ
  • 最新の料金・アクセス・トレーナー紹介ページ
課題・インサイト ④
  • 運動初心者は続けられるか不安
機能・コンテンツ
  • 初回体験の流れと雰囲気が分かるコンテンツ
図:機能は思いつきではなく、左の課題から一つずつ導く。対応する課題がない機能は入れない。

対応表にすると、その機能がなぜ要るのかを、課題までさかのぼって説明できます。逆に、対応する課題が見つからない機能は、今回の要件から外します。

✓ Point !
根拠を課題までたどれる状態にする

機能の一覧だけを見せられても、クライアントは判断できません。どのユーザーのどのつまずきを解くのかを添えると、要件に説得力が生まれ、後の優先順位づけもぶれません。

まずはジャーニーのつまずきを書き出し、その一つひとつに、解く手段を並べましょう。実務でも、この対応表があれば、提案した機能が解く課題までさかのぼって説明でき、追加の要望が来てもどの課題を解くのかを問い返して、必要かどうかを一緒に確かめられます。

Q
確認クイズ 1/4
リフトのジャーニーで、空き枠が分からず予約に何度もやり取りが要るという課題が見えました。この課題を解く要件として、最も適切なのはどれでしょう?
正解です!
課題は、空き枠が分からず予約に手間がかかることでした。これを直接解くのは、空き枠がひと目で分かる予約カレンダー(B)です。要件は課題から導きます。
惜しい!
A・C・Dは、この課題を解く手段ではありません。空き枠が分からないという課題に直接対応するのはBです。機能は、解きたい課題から一つずつ導きましょう。

MoSCoWで優先順位をつける

洗い出した要件を、すべて今回作れるわけではありません。MoSCoWは、要件をMust・Should・Could・Won'tの4段階に仕分ける、優先順位づけの方法です。

Must
必ず必要
空き枠が見える予約/スマホで完結する予約/最新の料金・店舗情報
Should
後回し可
予約前日のリマインド/予約の変更・キャンセル
Could
あれば嬉しい
予約履歴が見えるマイページ
Won't
今回やらない
オンライン決済/ポイント・会員ランク制度
図:単色の明度でMust濃→Won't淡。Mustを絞り、Won'tを先に決めると全体が絞り込める。

Mustは、これがないとサービスとして成り立たない要件だけに絞ります。迷う要件はShould以下に置き、今回やらないものはWon'tにはっきり書きます。

✓ Point !
すべてをMustにしない

すべてをMustにすると、優先順位そのものが消え、限られた時間で作りきれなくなります。今回やらないこと(Won't)を先に決めると、何に集中するかがはっきりします。

要件を一つずつ4段階に置き、Mustが多すぎないか見直すことが重要です。予算や納期が限られる案件では、このMoSCoWがそのまま交渉の土台になり、クライアントが要件を増やしたがっても、Mustを守るために何をWon'tへ回すかを一緒に決められます。

Q
確認クイズ 2/4
あるジムアプリで、オーナーが「あれば嬉しいが、なくても予約はできる」と話した予約履歴のマイページ機能。MoSCoWのどこに置くのが、最も適切でしょう?
正解です!
なくても予約は成り立つが、あれば嬉しい機能はCould(C)です。Mustは、これがないと成り立たない要件だけに絞ります。
惜しい!
Mustはこれがないと成り立たない要件、Shouldは重要な要件です。あれば嬉しい程度のものはCould(C)に置きます。優先順位を正しく分けましょう。

要件定義書にまとめる

優先順位までつけたら、判断の全体を一つの文書にまとめます。要件定義書は、何のために・誰のために・何を作るのかを、後から誰が見ても分かる形に固定する成果物です。

1
背景・目的
オーナーの困りごとと、今回のゴール
2
対象ユーザー
前回のペルソナの要約
3
成功指標
折り返し連絡を1日30分以内/体験予約を月5件から月10件へ など
4
機能要件
MoSCoWで仕分けた一覧
5
スコープ
やること/やらないこと
6
制約・前提
スマホ縦画面/ロゴの色変更・変形は不可/決済は今回不要
図:リサーチから優先順位づけまでの判断を、1枚に束ねる。各欄は前の工程の成果物から引く。

各項目は、前の工程の成果物をそのまま引いて埋めます。ゼロから考えるのではなく、ヒアリングやペルソナ、MoSCoWの結果を、該当する欄に移すだけです。

✓ Point !
やらないことを、必ず書いておく

やること以上に、今回やらないこと(Won't)を書いておくと、後からの追加要望や認識のずれを防げます。作る前に、範囲を1枚で示せる状態にしておきましょう。

テンプレートの空欄を、前の工程の成果物で一項目ずつ埋めましょう。1枚にまとまった要件定義書は、そのままクライアントへの提案資料になり、打ち合わせで合意を取りやすく、次の情報設計やワイヤーフレームの出発点にもなります。

Q
確認クイズ 3/4
要件定義書に書いておくことで、後からの追加要望や認識のずれを防げる項目は、次のうちどれでしょう?
正解です!
やること以上に、今回やらないこと(スコープのやらないこと)を書いておくと、後からの追加要望や認識のずれを防げます。正解はBです。
惜しい!
A・C・Dは、認識のずれ防止には直接つながりません。範囲を固定するのは、スコープのやらないこと(B)を明記することでした。

クライアントと合意する

要件定義書ができても、それはまだあなたの案にすぎません。実務では、要件を自分で決めて終わりにせず、クライアントに提案して合意を得るところまでが要件定義です。

提案すると、あなたの優先順位とクライアントの実感がずれることがあります。ずれたら、相手の話から実態を引き出し、MoSCoWを組み替えて合意版に更新します。

自作の案(ビフォー)
マイページをMustに設定/リマインドは未搭載
すり合わせで出た実態
「まず予約できれば十分」/無断キャンセルが月2〜3件
合意版(アフター)
マイページをMust→Couldへ降格/リマインドをShouldに追加
図:要件は自分で決めて終わりにせず、クライアントの実態に合わせて組み替え、合意する。
✓ Point !
ずれは早く見つけるほど得

作り始めてからのずれは、手戻りが大きくなります。要件の段階でクライアントと握っておけば、修正は文書の1行で済み、時間も信頼も守れます。

この講座では、織田さん役をAI(Gem①)が演じます。次の演習で提案し、実態が出たら遠慮なく優先順位を握り直しましょう。実案件でも、要件定義書は合意を取るための1枚で、提案して合意を得ておけば後の工程での大きな手戻りを避けられ、頼れる相手だと信頼されます。

💬 Gem①(クライアント役・織田さん)を開く

2-2と同じGem①です。要件定義書を提案してすり合わせましょう(Googleアカウントのログインが必要)。

Q
確認クイズ 4/4
リフトの要件定義書を織田さんに提案したところ、無断キャンセルが月に2〜3件あると打ち明けられました。あなたのとるべき対応として、最も適切なのはどれでしょう?
正解です!
クライアントの実態が出たら、MoSCoWを組み替えて合意版に更新します。リマインドを加えるBが正解です。すべてをMustにするCは、優先順位が消えるので前半で学んだ通りNGです。
惜しい!
要件は自分で決めて終わりにせず、実態に合わせて握り直します。リマインドを加えて優先順位を組み替えるBが正解。すべてMust(C)にすると、優先順位が消えてしまいます。

演習:要件定義書を作ってクライアントと握る

これまでの手順を、リフトの案件で最後まで通します。要件定義書を自作し、クライアント役の織田さん(Gem①)に提案してすり合わせ、合意版に更新します。

演習 2-6

STEP 1:リサーチ結果を要件に洗い出す

  • 前回のペルソナ・ジャーニーから、ユーザーのつまずき(課題)を書き出す
  • 各課題を解く機能やコンテンツを、一つずつ対応させる(対応する課題がない機能は入れない)

STEP 2:MoSCoWで優先順位をつける

  • 洗い出した要件を、Must・Should・Could・Won'tの4段階に仕分ける
  • Mustはこれがないと成り立たないものだけに絞り、今回やらないことをWon'tに明記する

STEP 3:要件定義書にまとめる

  • 背景・目的/対象ユーザー/成功指標/機能要件(MoSCoW)/スコープ(やること・やらないこと)/制約・前提の6項目を埋める
  • 各欄は、前の工程の成果物から引いてくる

STEP 4:クライアント役に提案して、すり合わせる

  • 上の「💬 Gem①を開く」ボタンから織田さん役を開き、要件定義書を提案する
  • 相手の反応を聞き、実態が出たら、どこがずれたかを書き留める

クライアント役の織田さん(Gem①)は、2-2のヒアリングと同じGemです。上の「💬 Gem①を開く」ボタンから開き、挨拶のあとに要件定義書を提案してすり合わせます。Gemとの対話は、音声入力を活用して実際の会話のように進めましょう。相手の回答は演習用の擬似で、最終的な合意の確認と評価はコーチが行います。実在する個人が特定できる情報や機密は入力しないでください。

STEP 5:合意版に更新する

  • すり合わせで分かった実態をもとに、MoSCoWを組み替える
  • 変えた箇所と、なぜ変えたかを、要件定義書に書き添える

完了条件(提出物)

この成果物は、章の最後でまとめてコーチに提出しましょう。

  • ユーザーの課題と、それに対応する機能要件の一覧ができている
  • 機能要件がMoSCoWの4段階に仕分けられ、Won'tも書けている
  • 6項目の要件定義書(合意版)ができ、すり合わせで変えた箇所とその理由が書き添えられている

リサーチを要件に落とし、優先順位をつけ、クライアントと握るこの流れは、実案件の要件定義そのものです。次回は、この要件の土台となる価値を、あらためて定義します。

CHECK
理解度チェック
リサーチ結果から要件を導く手順を説明できる
ジャーニー上のつまずき(課題)を書き出し、それを解く機能やコンテンツを一つずつ対応させます。対応する課題がない機能は要件から外し、なぜその機能が要るのかを課題までさかのぼって説明できる状態にします。
MoSCoWの4段階と、すべてをMustにしない理由を説明できる
Must(必ず必要)・Should(重要)・Could(あれば嬉しい)・Won't(今回やらない)の4段階で優先順位をつけます。すべてをMustにすると優先順位が消え、時間内に作りきれません。やらないこと(Won't)を先に決めると絞り込めます。
クライアントと合意するまでが要件定義である理由を説明できる
要件を自分で決めて作り始めると、クライアントの実感とずれたとき手戻りが大きくなります。要件定義書を提案して合意を得ておき、実態が出たらMoSCoWを組み替えて合意版に更新します。